銀色の剣・桜色の願い・闇色の……
あれから四日が過ぎた、月曜日。
〝紫色のあいつ〟に動きは無い。
「あの子たち、今日は出て来られるかしら?」
あの朝のあの後、
「今日も朝ごはん、食べてないの?」
「食べる気がしない。
おにぎりとゆで卵を差し出す。
「こんな時だからこそ、食べなきゃだめよ」
「母さんと、同じこと言うんだな」
「良いお母さんじゃない。あなたのこと、心配してるんだもの」
「……」
「……」
「
「何?」
「はい!」
「え? 手品?」
そうっとラップをほどいていく
「ピヨ」
ひよこが手の平で鳴いていた。
「どうぞ、召し上がれ」
「ピヨ」
「ピヨピヨ」
ひよこのつぶらな瞳がまっすぐ、
「ひえっ。だだだ、ダメだ。おれには食えねええ!」
「ピヨ」
「そう? じゃ、私がいただきまーす。あーんっ!」
「ピヨ?」
「
口に入る直前で、元のゆで卵にもどった。そのままパクッ。もぐもぐ。
「
「
「
ポーッと聞く
「でもそのままじゃ鳴かないから、幻覚をあなたに見せたわけ」
「そっか。いろいろ合体してるんだな」
「やだ。
「ハハッ、ごめん。ハハハ」
「ふふ。少しは元気になれた?」
笑ってはいるが、力はなく。頭をうなだれる
やがて、ポタッポタッと目から床に、いくつもの
「
「
涙と悔しさで、顔をぐしゃぐしゃにする。〝紫色のあいつ〟への憎しみも、あった。
「……泣かないで」
「
「あなたには、
さすっていくうちに——
「!
彼の顔を真っ黒、もっと
「これ……。ダメ! しっかりして
彼の胸ぐらをつかんで激しく
「え? おれ、何かした?」
涙目で、不思議そうに
「
『油断するな』
声を思い出す
「あー。いたー。え?
彼が見たのは、
「
五年一組に、
「大丈夫?」
「なんか顔が青いわよ……」
黙って不安そうに見ている子もいた。みんな、女子も男子もそれぞれ自分なりに彼女と
「
「
「
駆け寄る二人。
「謝らなくて良いよ。もう平気なの?」
「そうよ。まだどこか悪いところ、無い?」
「わたしはすぐ、家に帰れたけど……」
弱々しく話しを続ける。
「
「(
「
「
憎くて顔を歪ませる
「
それは
「大丈夫。
「
教室の入り口が、ざわめいた。
「
「どうしたの、その格好。病院から抜け出したの?」
クラスメイトの声に振り向く三人。
「
うつろな目で
「ぼくは……。
「
「きゃあ」
乗っ取られていく。〝紫色のあいつ〟が
このままでは
「
「てめえ!
〝
それを待っていたかのように
まるで
「これは
〝
「
小さな
そして最後は、全部を滅ぼす。〝
「
「逃がさない」
「ダメだ! 逃げて」
「ダメだ! 逃さない!」
「
「これじゃ、みんなを殺しちゃうよ。いやだ!」
「
同じように〝
〝紫色のあいつ〟に向かっているはずなのに、自分を滅ぼす道に近づいている。
「
彼は止まらない。このままでは地獄が待っている。
「
「
『
言葉が、降り注いだ。強く、厳しく、そして暖かく。二人だけが感じた。
「おれは……。
「感じた。私にも聞こえた。戻って来てくれたのね
〝紫色のあいつ〟が舌打ちをした。
「みんな! 廊下へ逃げて!」
握り返して一緒に走る
「
「
「まかせて!
三階から。
そしてダッシュ!
「
「
「いやー。
ドッカン! と
二人の後を追う。
「腹、減ってきたなぁ」
「余裕ね。はい、あーん」
お
あーん。はむ。
「うめえな、おい」
「お母さんのおにぎりだもの。私もひとつ」
「だから
「
「とにかく、もぐもぐ。
「やっちゃお!
「あいつの動きを止めるのが先ね。
「一気に止めようと思わない。ちょっとずつ! 時間を稼いで後は走りながら考える!」
「
「どこがちょっとだ。すごいじゃん」
「
「カッケーなあ!」
「あーダメかあ。〝
和紙には☆の記号を一筆書きで記した〝
〝
「無駄だあ!」
「おまえ達も切りきざんでやるよ!」
〝紫色のあいつ〟がスピードを上げた。二人に追いつきそうだ。
「
「やっぱりがんじがらめにしないと」
〝がんじがらめにしないと〟 ピコーン!
「体育館に行く!」
「体育館? どうするの?」
「って、キタキタ来たー!! もっと速く
「だれがシルバーだ! 夕日に向かって投げたるぞコラ!」
まだ
ヒョイッ。
寸前でかわした
勢いあまった
折れる支柱。音を立てながら体育館が傾いて倒れる。
「しまった!」
「
二人はあせった。が、
「良かった!」
「じゃないわよ!」
「とにかく、時間をかせいで。おれは物置へ行く」
「わかったわ。どうする気かわかんないけど。その前にこれ」
「二人で念を込めてこれを置けば、少しは効果あるんじゃない? 時間もかせげるし」
「
二手に別れる
「
さすが
「
再び暴れようとする〝紫色のあいつ〟。だが、動けなかった。
グラグラするだけで、その場から出られない。
「よっしゃあ!」
「
「二人で初めて行なった共同作業です」
「どこの結婚式の司会者なの、
ハイタッチする二人。
「
「
「じゃあ、もうひとつ!」
「なかなか出られないでしょ? これでドヤあ」
ドヤ顔の
「なめるな!」
〝紫色のあいつ〟が叫ぶ。
電気みたいな光がバチバチと鳴った。力づくで破るようだ。
「あらら。
「
「え?」
振り向いた時。ビュンッと彼女の顔の横を——、
物干し竿が飛んでいった。
物干し竿は
「ふざけるなああ!」
〝紫色のあいつ〟が怒った。回転を始める。あっという間に
「さ、逃げるよ
もはや様式美。うむ、美しい。なことはどうでもいい。
「
紐の次は少し太いロープがつながれ、その次はさらに太いロープがつながる。少しずつ少しずつ、太くなるロープが剣のボールに巻き取られていった。
「
「巻いて巻いてえ!」
ポッカンキョットンで歌う
ロープは切れなかった。
最後は運動会で使う、すご太の綱引きの縄が、
「
「
今度は
「これでドヤあ!
「な、な、な?!」
〝紫色のあいつ〟が驚いた声を出す。
オロコロオロコロ。途方に暮れるとは、こういうことなのだろうか。
「
「AT○ィールド!——んっ! んっ!」
「……おい」
あきれる
さらにさらに、もうひとつ円を描く。等間隔に、十二種類の記号を配置した。念には念を入れて、
これで〝紫色のあいつ〟を完全に閉じ込めたはずだ。外へ出ることは出来ない。
思った通り、ピクリとも動けなくなった。
「
「
「この中よ。これからあいつと
「
「……おい」
「……おい」
「あああ。ごめんなさい! ごめんなさい!」
「
中から
「
「その声、
「大丈夫? どこか痛くない? 気分は?」
「平気だよ。気がついたら、暗くて。あ、物干し竿がある?」
「物干し竿? なんで?」
「ねえ、
「どうだろう……。ちょっとわからないよ」
〝紫色のあいつ〟は、こちらの様子をうかがっているのか。いなくなったのなら、
「
「
「知ってるわ。これでもかって覚えさせられたもの」
「じゃ、一緒に
「そっか。
「ねえ。オオハラエノコトバって、なに?」
クラスメイトの女子が
「え? ええと。悪い鬼とかをやっつける言葉よ。例えば……。
どう言えばわかってもらえるか悩みだした
「ここからは、おれが説明する!
壱が言い切る。文字どおり、話しを切った。
「…………」
「え、えと。つまり、それだけスゴイ言葉なんだな?」
クラスの男子がおそるおそる言った。
「
「いくぞ。
うなづく
「
声と息、心を合わせる二人。
「高天原に(たかあまのはらに)」
「神留まり坐す(かむづまります)——」
その色は、
「何これ?
「熱くないな? うわ! ビリビリくる」
クラスのみんなが騒ぎ出す。
「
「〝紫色のあいつ〟だ!
あわてる
「みんな! 離れて、もっと!
クラスメイトは散り散りに逃げる。
「
「ははは。泣けよ、
「大事なもの死なせてやるよ。苦しめ。ありがたく思えよ」
〝紫色のあいつ〟が、
「いやあー!!」
「
「きゃああ! 痛い!」
手から身体全体に電撃が走った。
「ちっくしょおお!」
「うわわっ。痛ってえ!」
「
「ああ。どうしよう……」
こうしている間にも、
「
「
「
「
「早く離れて。ぼくはいいんだ。みんな死んじゃうよ」
「あきらめないで、
『わたしは、
涙をいっぱいためた目。泣きながら、声に全てを込めて、大きく叫んだ。——
——時、
「すごい。
「おおりゃああああ!」
「
つぶやく
「
叫ぶ
「え? え? 行かない? 行けない……。そうかっ!」
「
「逆転!」
「
人差し指を空に向けて高く上げる。
「どうやったんだ?」
「ただ、逆にしただけ」
出ることが出来ない
「今のうちよ! 時間がたてば、また沈むわ。早く
「も一回、おりゃああ!」
「よし
「
「
「誰かが、ぼくの足を引っ張る!」
ボールの底には——。足をつかむ腕だけが伸びていた。開いた
あいつの執念、〝
「まだだよ。直接送ってやるよ。
「しつこい! やめて!」
たまらず
「
「
「
「
「
「
クラスメイトが、
全員がつながった。
「みんな……。ありがとう!」
「よーし! みんなで助けるぞ! まだ引くな、合図するまでこのまま待つんだ!」
男子の一人が声を上げる。
〝紫色のあいつ〟の腕がさらに強く引っ張る。
「
「
「
ガクンと衝撃が起こった。
その衝撃で二人の手が。
「
「
「
『大好きだからあー!!
右手で
「
「!
また、
二人からあふれる
残った縄だけが、ドサドサドサッと落ちる。
「やった……。みんな!
男子の一人が叫んだ。クラスメイトたちから歓声が上がった。
「アプローーズ!(拍手・喝采!)」
別の男子も叫ぶ。全員から拍手が湧いた。
「痛い。お尻が痛い……。あれ?
縄と一緒に崩れ落ち、尻もちを突いた
「タチケテ。イタイ。オモイ」
声はすれど、姿は見えず。
「あ。
「どうしたの! こんな所で寝てるなんて!」
「ハヨ、ドカンカイ」
「ドボチテこうなるの?」
「ねえ、
クラスの女子が言った。
「あの四人は、ほっとけ。近づけないよ」
「四人? 近づけないって?」
男子の言葉に首をかしげる。その四人に目をやると——。
崩れた縄の中心でお互いの手を握る、
その横で、かいがいしく
「……
別の女子が母親のようなまなざしで言う。どこの母さんだ。
「違うな。愛だよ、愛……。ちっくしょー」
別の男子は、さとったように言った。実に、さわやかで健康的な、
『ちっくしょー』だった。知らんけど。
校庭では先生たちが大騒ぎしている。三階に穴の空いた校舎。完全に崩れた体育館。無理もない。校庭もえぐれている。
やがて消防車や救急車、パトカーまでやって来た。
「そういえば、カモカモ先生は?」
「たしかお
聞いただけで腹が痛い。
「そうだっけ?」
「お父さんのお兄さんの奥さんの友達のいとこのお母さんが急死したとかで、お葬式に行ってるとか聞いたけど?」
間違いなくズバッと他人だ。よく覚えたな。
「駆け落ちしたって聞いた。愛をつらぬくとか何とか。飛びに行くって」
飛びに行くって、どこかの屋上から「
さあ、だんだん怪しい話しになって来ました。
「ま、いっか」
クラスメイトたちはカモカモ先生をスルーする。
『
別棟の校舎の屋上で、お茶をすするカモカモ先生。今までを、全てをここで見ていた。
生徒たちが話していた欠勤理由の噂の元は、コイツ。嘘をいっぱい流してどうでも良くさせる作戦だ。成功。
「熱出して(嘘)良かったなあ」
「ズズ、ズー」
「あの四人が、ここまでやるとはなあ。ズズ、ズー」
お茶がうまい。勝利の味だ(戦っていない)。心地よい風が吹いた。のほほん。
五年一組の生徒たち全員は、カモカモ先生のことはもう、どうでも良かった。
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