紫色の炎・青色の転校生
「——てなことが昨日の夜にあったのだよ。君たち」
「やだ。
「ダメだよ
「
朝のホームルーム前、昨日の出来事を話す壱に『オッサン』と言ったのは
かわいくやさしい顔立ちで、背中まである黒いストレートのロングヘアはさらさらでふわふわっとしている。まるで日本人形みたいに。
そして、そんな
細身の長身で、ちょっと長めの髪型がよく似合ってる。イケメン。
二人とも壱のクラスメイトで幼なじみ。小さいころから三人で
「そう言えば
「ぼくは二年生までかな」
「
「ちがうわ。ワンちゃんよきっと。あの大きさは秋田犬よ。カラスは……新種よね。黒だけど光が当ったところは虹色に見えた。あ、あと足が三本あったわね」
「二人とも何年うちで遊んでんだよ。キツネでも犬でもねえよ。だいたい二階までとどく秋田犬ってどこにいるんだ。狼だよ。
続けて二人に、
「カラスは合ってる。
「オホホホホ。そうだったかちら?」
「うんうん。細かいことは気にしない」
「それより
さらふわっヘアをゆらしながら
「ん〜。塀の中に消えたのは確かに見た。扉は無かったし」
「まあ、鬼とか見たのは四年生以来かな。あの時は、ちょうど去年の今ごろか……。ああ、ナニモカモミナナツカシイ…………」
画像と映像でしかながめたことはないが。
「お〜い、もどって来いよ
ナイスでグッドな
「そうねえ。
「はっはっは。罪な男だぜおれも。ホレたらやけどするぜ?」
「なんでそうなるの。ナイナイナイナイナイナイ。大切なことだから六回言う」
「ブフっっっだめだ、止められないーー」
吹き出して自分の腹筋を滅ぼしつくしす
「ぼくも聞いた日の夜は眠るのが怖かったよ。目をつむると頭の中に〝アレ〟がちらついたんだ」
二人が言っている〝アレ〟というのはこうだ。
——去年の春の夜、
「火事?」
それは小さく、ゆらゆらゆれている。何か変だ。赤黒いようで紫色っぽい。ふつうの火の色じゃないのはすぐわかった。
「人魂だ! 父さん! 母さ——」
「!」
火が急に大きくなって炎となった。なにかが照らされている。
いや、照らされているんじゃない。それは、そこには……
〝右目が燃えている大きな顔だけ〟が浮いていた。
真っ暗な境内で不気味に、白い歯を見せてニヤァっと笑っていた。
「うん、おれは……あの時はさすがに怖くて泣きまくったなあ」
「え」
「え」
「あ」
しまったの顔になる
「なに?なに?
「ぼくも初耳だよ! 今まで全然怖く無いって言ってたのに!」
「なななな何のことかちらぁあああ?(やばい。バレたら二人が危ないかも)」
「……
「そうだよ……。ガマンするほどのことじゃないよ」
「だって……恥ずかしいじゃん」
「大丈夫だよ
「
「あ、ありがとう
チャイムが鳴った。
「席にもどらなきゃ。じゃね
手を振りながら離れる
壱は二人の言葉がありがたかった。何かあればいつもはげましてくれる。もちろん、自分も
でも、本当は恥ずかしいからじゃない。だまっていた理由は他にある。
きっと〝あのこと〟も伝えたら、二人は混乱する。そして
なにより
昨夜のことは当然、両親にも伝えてある。二人は去年と同じように動揺した。そして、〝あのお方の敵〟——昨日の鬼の言葉が頭をよぎる。それで確信した。
(今も、ずっと続いている……)
——部屋から逃げ出す前、〝大きな顔だけ〟が突然、部屋の窓に来た。窓いっぱいの大きさ。ガラス全部をふさぐほど。それが、目の前に。
〝大きな顔だけ〟がしゃべった。
(久しぶりだ。ずいぶん楽に生きてるじゃないか)
いや。声を出していない。頭の中に響いてきた。
〝大きな顔だけ〟は続けて言う。
「お前たち二人と
また白い歯をむき出しにして笑う。
〝滅ぼしてやる〟ということは〝殺してやる〟と同じだ。
走って一階の両親の部屋に飛び込む。
「父さん! 母さん!」
怖くて怖くて泣きじゃくった。母親に抱きつきながら、二階で見たことを話した。
そして宮司である父親は、すぐに怒りを顔に出して境内へ走って行く。だが〝大きな顔だけ〟はすでに消えていたのだった。
(母さんは特にあわててたな。父さんは……父さんの怖い顔はなんか、頼もしかった)
(えーと。あのあと父さんが、片方の〝お
〝お
(でもなあ、問題は〝二人と
〝柱〟は神様の数えかただ。一柱は、ひとはしら・二柱は、ふたはしら・三柱は、みはしら・四柱は、よはしらと読む。
(
????
(復讐って何だ?〝二人〟一人はとうぜんおれだとしても、もう一人ってだれ?いや、どうしておれ?)
「おーい。
「ハッ。良かった。おれ生きてた」
とっさにボケる
声をかけたのは
本名は
カラスのような黒いツヤツヤ髪にフチ無しメガネがよく合う。
いつも黒いシャツと暗いグレー系のスーツをビシッと決めて、それが背の高い細マッチョな体型にばっちりだ。
そしてなぜかネクタイの上に鈴を、ネックレスにしていた。古くてさびている。音はしない。大きさはクルミほどか。
カモカモ先生はクラスのみんなに、
「
英語を使って話しかける。
「カモカモ先生、何で英語?」
「発音が変でーす」
クラスの何人かが茶化す。でもカモカモ先生は意に介さず。
「
しつこく英語。この単語を知っている小学生は多分、少ない。みんなは理解できず静かにしているだけだった。
「あー。今日はみんなに転校生を紹介するぞ。きっとビックリすると思う」
とたんにクラスがざわついた。
「どんな子?」
「イケメンが良い!」
「いや、そこは美人の方が良いだろ」
「えー男子ぃ。それ差別ー」
「どの口がー」
もうメチャメチャ。言い合いのルツボと化した。ちなみにルツボは英語で、メルティングポット。
「おーーーーーーだーーーーーー」
カモカモ先生の太くて渋い声が教室を駆け巡る。静まる教室。
「入ってきなさい」
促されて、音もなく扉の向こうから入って来たのは……。
またクラスがざわつき始めた。
当然だ。そこには、教壇の上に立っているのはスラリと背が高く、色白で小さい顔。
美人でかわいくて大人っぽい。
何より、金色の髪! 青い目! どう見ても外国の人。
髪は肩までの長めのボブ。前髪は、パーマをかけているのだろうか。ゆるいウェーブが眉まで届いている。全体の雰囲気が活発そうな印象だ。
そして彼女の目に
空の色より海の色より、どこまでも、いつまでも清らかな青色。
それはまるで……。
(
「自己紹介をお願いします」
カモカモ先生は転校生に声をかけた。
「
「
「
「
転校生は早口で言い終えた。教室の中がシーンとしている。
来た。ポッカンキョットンがやって来た。みんなアングリと口を開けたままだ。
(分かる、分かるぞみんな。さまよえる子羊になっているのがわかる! ここはおれが何とかしないと)
(でもこの声……どこかで聞いたような)
その時だ。開いていた窓から風が吹いてきた。
転校生の髪が、
「あーーっ!」
昨夜のなびく
「昨日の……」
「人間だったんだ!」
「
転校生が
「ウオう!」
反射的にのけぞる。
「
「ア、アウアウアーアウアウアー(この娘、なに言ってんだ?)」
さっきのカッコ付けはどこへやら。
(考えなきゃダメだ考えなきゃダメだ考えなきゃ……そうだ! あれがあった。あれさえあれば、きっと!)
「わ、わっちゃねえむ?(
「
効果があった。転校生はあわてて謝っているようだ。
彼女はゆっくり噛みしめるように、
「
『
再びポッカンキョットン、襲来。
「ホーホケキョ」
ゆっくり流れる、
誰もが口をつぐんだままだ。
そこに突然、
『わたし日本人やでぇ!』
全員がコケた。見事なシンクロっぷりだ。十点満点。
カモカモ先生が、
『若いって良いなぁ』
みんなが、
『何でやねん!!』
今この瞬間、初めてクラス全員の真心がひとつになった。
「ホーホケキョ」
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