第10話

別の神主が言った。

「結界を通った時、女は何か違和感を覚えたはず。だから姿を現してそれを確かめに来るでしょう」

「そう、結界ができた途端、いきなり本番ですね」

その時、神主の言うとおりに女が現れた。

運動場の中央付近、高さ約3メートル。

ちょうどたてられた柱とおなじくらいのところの宙に立っていた。

神主、校長、生徒たち、そして報道陣が一斉に目を向ける。

女はいつもと違い、小走りに近い速さで運動場を横切り、綱のすぐ上くらいに移動した。

そこで止まり両手を上にあげて、目の前の宙を叩き始めた。

それは見えない壁を強く叩いているように見えた。

そこはお守りのようなものを吊り下げた綱よりも少し上だったが、そこにも結界があるようだ。

「行きます」

小箱を手にした神主が動き、四人がそれに続く。

五人は宙に浮く女の下に集まった。

そしてなにやら呪文のようなものを唱え始めた。

それは先ほど聞いた呪文とは違っていたが、校長には何を言っているのかわからないという点は変わらなかった。

すると女が振り返り、すごい形相で五人を一人ずつ見た。

いつも能面のような顔をしていた女が、初めて表情らしきものを見せたのだ。

そして神主に向かって何かを叫んだ。

声は聞こえなかったが、その顔は明らかに何かを叫んでいる顔だった。

しかし五人の神主は少しもの動揺も見せることなく、呪文のようなものを唱え続けている。

そのうちに女は叫ぶのを止めた。

その顔には苦悶の色が浮かんできた。

やがて女は両手で頭を抱え、もだえ苦しみだした。

見れば女の体が徐々に下がってきている。

女の体はそのうちに、神主が手にした小さな木箱の中に吸い込まれ

もちろんそれらは数多くのテレビカメラに撮られた。神主が言った。

「封印が終わりました」

 校長は頭を下げて「ありがとうございます」とだけ言った。

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