第4話
女は宙に浮いたまま運動場を横切り、学校の塀あたりまで来てそこですうっと消えた。
それはもう大騒ぎだ。
テレビ局は特別番組を放送し、女の映像を何度も流した。
他局で同じように学校に行っていたのに、運動場とは校舎を挟んで反対側で取材をしていたために女を撮ることができなかったクルーは、社の上層部から大目玉をくらった。
新聞社も同じようで、女の姿を撮った社は一面に載せ、それ以外の記者は上司からきつく怒られた。
こうなると日本全国に騒ぎが広まった。
いや日本全国と言うのは正解ではない。
世界中と言った方がいいだろう。
まさに世界中からテレビ局や新聞社が押しかけ、地方の小さな小学校に集結したのである。
彼らの多くは、女の幽霊を動画に写真に収めるまでは帰ってくるなと上司から言われていたので、それはもう必死だ。
この騒動に学校側からそして近所の人から苦情が寄せられたが、そんなものを彼らが聞くわけがない。
女を撮らないと、今後の生活にかかってくるからである。
警察が来るといったんは引き下がるが、いなくなると一瞬で戻ってくる。
しばらくいたちごっこを続けた結果、学校側や住民側のほうが諦めるようになり、苦情を入れることも警察を呼ぶこともしなくなってしまった。
したがって地方の一小学校に、世界中から来た報道陣が堂々と常駐するようになったのである。
学校側は学校側で、報道陣以外の対応に追われていた。
学校に行くのが嫌だという生徒が大勢いたからである。
中には女の幽霊を自分はまだ見ていないのではやく見たいと言い出す子供もいたが、そんな生徒は無視された。
嫌がる生徒は両親と説得した。
中には、あんな学校にうちの子供を通わせられませんと言い出す親もいたが、その場合説得の対象が子供から親になった。
そんな学校の事情など報道陣はもちろんおかまいなしだ。
学校にはさすがに入れない彼らは、幽霊が出現した運動場にある塀の外に陣取った。
そしてもしものことを考えて、反対側にも少し集まっていた。
日本人だけではなく、日本人以外の東洋人、白人。黒人。アラブ系からスパニッシュまで。
その人数は、軽く百を超える勢いだった。
学校の周辺は人種のるつぼと化していた。
そんな中でついに女が数多くの報道陣の前にそのすがたを現した。
屋上から運動場に向かって歩く姿がとらえられたのだ。
高さは屋上のままで、女は運動場の上をゆっくりと歩いて行った。
女はもともと屋上を歩いていたのだが、そこには誰もいなかったのでそれを見た人はいなかった。
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