第3話 楽園の蛇
今日もペンドルトンの言いつけを無視して岩室を飛び出した。気象予報専用の機器が夕立の到来を知らせたからだ。
3日ぶりの雨だ。天然シャワーを思いきり浴びてやる――
放射線防止の黒いカーテンを頭から被った状態で液体ソープを振りかける。早く来い,すぐに来い――来た! 思いのほか激しい雨だ。
ペンドルトンに切り揃えてもらった髪をくしゃくしゃと洗う――最高の気分だ! 私は今生きている!――カーテンを頭上に掲げ,生まれたままの姿をさらしながらくるくる舞った。
きっとペンドルトンも来ている。おてんば娘がしでかすまいかと肝を冷やし岩陰からそっと様子を窺っているはずだ。その視線を意識すると感情が高揚した。
すぐ近くに気配を感じた。忙しない足音も迫ってくる。何故,いつも見ているだけじゃない? 急に恐くなりカーテンを身に纏う。振りむきざまに抱き竦められた。
違う,ペンドルトンじゃない。少しだけ高い位置から私を見つめているのは同年代の少年だ。アイドルみたいな西洋的で垢抜けた愛らしい顔をしている。
誰?――と尋ねた瞬間に少年が殴り飛ばされた。ペンドルトンが眼前に割って入り再び身構える。
「ご,ごめんなさい――その
「勝手に来るなと言ってあんだろ!」
「何度もメールしたのに返事がなくて。どうしてもお願いしたい仕事があるんです」
「うっせぇ! 帰れ!」
「そいつのために何人死んだか! どうかあいつを――」殴打されて岩盤上を転がっていく。ようやく踏みとどまって危うげに身を起こし土下座をする。「助けてください,パンドラさん――」
「その名を呼ぶな!」
ペンドルトンはしばらく肩で息をしていたが,視線をあわさないまま,落ちつかない口調で先に帰っていろと指示した。
岩室に戻った私は見様見真似で覚えた手順でコンピューターを操作し外部の様子を画面に映した。
ペンドルトンは少年を台地の際まで追いつめ,底なし沼に投げこむと脅していた。
メール機能を起動させる。それらしき文書が見つかった。少年は
「ネットパンドラ」で検索をかけてみる。洋菓子,ジュエリー,中古車,映画――宣伝文句が連なるばかりで,ペンドルトンと関係しそうな記事はヒットしない。「足長」「銀髪」「仮面」「ビート」と入力事項を増やしたところで,巣寝狗を放置し方向転換するペンドルトンの映像が目に飛びこんだ。
コンピューターを使用した痕跡を消去する。ペンドルトンが石段を駆けおりて大声で「
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