第19話 ゆっくり家族になろう
ゴロツキが御用となった後、啓太と恵里菜はレストランで夕食にありついていた。
夕食には、
・宮崎牛のステーキ
・マグロの刺身
・チキン南蛮
・山菜おこわ
・茶碗蒸し
・手作りかまぼこ
・お澄まし
・山菜天ぷら
・野菜スティック
・漬物
・マンゴー
の11種類が膳に乗って出てきた。
さらに地酒もついてきた。
「これはすごいね――」
「あ、お肉だーお・に・く」
相変わらずの二人である。
恵里菜も啓太も肉を焼きながら刺身を頂いた。
「おいしー!」
「うん、凄いね」
恵里菜は零れ落ちそうになるほっぺを抑えて、啓太は刺身の味に舌鼓を打っていた。
「あ、啓太。お酒どうぞ」
「あ、ありがと」
と、恵里菜が注いでくれる酒を飲み、啓太もまた恵里菜に酒を注ぐ。
二人とも自衛官である。そのためお酒は鍛えられていて結構強かったりもする。
「あ、お肉焼けたみたい」
「宮崎牛って高級な肉だよ」
「そうなの?」
「聞いた限りなんだけど、丹波牛とか松阪牛も元は宮崎の牛なんだって」
「へえ、それは期待できるねぇ」
と二人で焼けたばかりの牛肉を食べる。
程よいサシが入っていて口の中で溶けていくような味わいと甘みを感じる肉だった。
「これは!」
「おいしー!ほっぺたおちそー!」
2人とも大満足の肉である。
さらにチキン南蛮やおこわも食していき、すべてがおいしくあっという間にみんな食べきっていた。
「最後はマンゴー!」
「おれ、マンゴーにがてだから食べちゃってもいいよ?」
「そうなの?」
「ちょっとね、イガイガしちゃうから」
「そうなんだ。じゃあいただいちゃうね?」
「どうぞ」
と恵里菜は2人前のマンゴーも食べきってしまった。
「うー、お腹いっぱい。ちょっと食べすぎたかも?」
「明日、その分動けばいいんだよ。このホテルの下はすぐ青島神社らしいよ。島まで歩いて渡れるらしいし」
「そっかー。楽しみがいっぱい!あ、この後お風呂だよねー」
と2人は食事の余韻を楽しんだ後、恵里菜が借りた貸し切り露天風呂に行くため一旦部屋に戻った。
「恵里菜、念のため水着持って行っときなね」
と、啓太は一応念を押した。
でもいい感じにほんのりお酒の入ってしまっている恵里菜は
「なんで?」
と聞いてくるので、貸切風呂を説明すると、ゆでだこのように顔を真っ赤にしてシューと湯気も吹いた。
待つこと3分程――
けど、ケロッとした表情になった恵里菜は、
「ダイジョブ!だって私達結婚するんだもん。だからダイジョブ!」
と両手に拳を握って2度3度と大きく頷いて、
「よし、さあ行こう!」
と恵里菜は啓太の腕を引っ張って部屋を出た。
屋上についた2人は、1か所しかない脱衣所で、固まっていた。
「な、だから言ったろ?」
「ダイジョブだもん!私啓太のお嫁さんになるんだもん。これくらい平気だもん!」
と、パパーッと浴衣を脱いで下着姿になった、までは良かったのだが――
「うー、やっぱりはずかしー――」
と手が止まってしまった。
「だろ?」
「って、なんで啓太は私のこの姿見ても平気なの?」
と下着姿でプクーッと膨れっ面になる。
「いや、なんでって俺も結構いっぱいいっぱいなんだけどな――」
「そうなの?」
と恵里菜が啓太に近づいてくる。恵里菜が一歩近づくと啓太も一歩退く。
「ブー、なんで下がるの?」
「だから、いっぱいいっぱいなんだってば」
「ブー、むいちゃえ!」
「え、ちょっ――」
と恵里菜は啓太の浴衣の帯を取ってしまった。すると当然啓太の浴衣がはだけていって、あそこがモッコリになっていて――
「あ――」
「だから言ったのにー」
けど恵里菜は啓太のあそこから目が離せないでいる。
「お願い、後生だから見ないであげて?」
「むー、私だって見せたんだから、啓太も!ほら手どけて!」
「いーやーーー」
なんか男女逆になってるのは気のせいだろうか――
かくして2人は貸し切り露天風呂に入った。
けど、慣れてしまえばどうという事も――ないわけはない。
とりあえず啓太は腰にタオルを巻き、恵里菜は体にタオルを巻いているため、今はなんとかなっているものの、やっぱりお互い意識しあってしまっている。
でもこれじゃいけないと思った恵里菜は、大きく頷くと、
「啓太、背中流させてほしい」
と意を決して啓太にお願いした。
「私達結婚するんだもん。いいでしょ?それに慣れておかないと毎回こんなんじゃ私自信なくなっちゃう」
と、上目遣いで啓太に言う。
もちろん啓太も同じように思っていた。
少なくとも啓太はそれなりに男女交際の経験もあるわけであるからして、啓太がリードするのは当然だろうこともわかってはいるのだが、こうして愛する女性が目の前にタオル1枚でいることを考えると、どうしても鼻血が出てしまう。
「わ、わかった――じゃあお願いする、ね」
啓太も意を決して恵里菜の申し出を受けることにした。
恵里菜がタオルで石鹸を泡立てて、啓太の背中にタオルを乗せた。
初めて見る啓太の裸の背中。その背中の広さに何というか、安心感というか妙な興奮もしてくる恵里菜。
啓太も啓太で、初めて女性に背中を流してもらうというこの状況に興奮もすればちょっとした喜びにもにた感情も湧いて出てきていた。
「啓太の背中、こんなに広かったんだね――」
「そお?」
「うん、なんか安心する――じゃあ行くね?」
そう宣言して恵里菜は啓太の背中をコシュコシュとこすっていく。こすった場所が石鹸で泡立っていき、背中全部を覆いつくした後、
「じゃあ、右腕上げて?」
啓太は言われた通りに右腕を上げる。
恵里菜は上げられた腕をつかんで脇から指にかけて丁寧に洗っていく。
「じゃあ、今度は左腕」
「はい――」
そうして背中と腕を洗い終えた恵里菜は、啓太にお湯をかけて泡を洗い流していく。
「ま、まだ前は慣れてないから自分でお願い――」
「う、うん。ありがとう」
そうして、恵里菜は啓太の隣に座ると、自分の体も洗い始めた。が、なかなかバスタオルが外せないでいるのを感づいて、啓太はササッと残りの部分を洗うと先に湯船につかった。
啓太の心遣いを感じた恵里菜は、啓太に「ありがとう」と言って体を洗い、タオルで前を隠しながら湯船に入ってくる。
裸のままの二人が湯船につかり、しばらくして――
「私、啓太のお嫁さんになるんだって、やっと実感湧いてきた」
と恵里菜が突如言ってきたので、啓太も
「今更?」
と笑って返す。
そしてお互い顔を見合わせて笑いあう。
「ゆっくり、ゆっくりで良いから家族になっていこうな」
「うん。私は啓太のお嫁さんになれる、それだけで幸せ。そして啓太の赤ちゃんが産むんだ。そうやって家族を増やしていって、楽しい家庭を作るのが私の今の夢」
「そうだな――」
「啓太は何人子供ほしい?」
と突然言われた啓太は少し考えて、
「俺、一人っ子だったから2人以上はほしい」
「そっか。私はね、3人は欲しい!それでね、啓太にそっくりな男の子と女の子が欲しい」
「俺は恵里菜にそっくりな子供が良いなあ――」
再び笑いあう2人。
「ねえ、啓太腕上げて?」
「いいけど――?」
啓太がうでを上げると、その隙間に恵里菜が体を入れてきた。
お湯の温度とは違う2人の体温と肌の感触を感じる2人。
「私ね、できたら――結婚してからも、毎日は難しくてもこうして一緒にお風呂に入りたい」
「一緒に?」
「うん。正真正銘、裸の付き合い!夫婦だからこそ大事だと思う。パパもママも時々入ってたし、今でも一緒に入ってるんじゃないかな」
「そっか。うちはみんな別々だったからなぁ――でもそういうの良いね。うん、結婚したらできるだけ一緒にお風呂入ろう」
「うん――ありがとう」
と2人は顔を見合わせ、そのまま顔のシルエットが一つになった。
時間が来て、2人は風呂から上がると、ちょうど部屋に仲居さんが来ていて、布団を敷いてくれていた。
「あ、お風呂いかがでしたか?」
と仲居さんが帰ってきた2人のためにお茶を淹れてくれた。
「大変いいお湯でした」
「よろしければご宿泊の間ご予約お取りしましょうか?」
と言ってきたけれども、大浴場も楽しんでみたいからと断った。別に2500円をケチりたいというつもりはなかったのだが、今日の明日ではまだ二人とも慣れていないだろうからと考えたからだった。
「そういえば、お2人はご結婚されるんでしたね」
「え?まあ、はい」
仲居さんに突然言われて答えると、
「じゃあ離しておくのはアレでしょうからくっつけておきますね」
と仲居さんは離して敷いた布団をササッとくっつけてしまった。
「あ、寝られるときはこちらの扉を閉めていただけると防音効果が上がりますので」
と仲居さんは変な置き土産をして退出していった。
「いったい何の防音――」
と2人顔を見合わせて、その意味に気付くと二人してゆでだこ状態になったのであった。
「さ、さあ寝ようか――」
「う、うん――」
と啓太が右側の布団に入ると、恵里菜も同じ布団に入ってきた。
「え?恵里菜こっちが良かった?」
と啓太が聞くと、恵里菜が
「啓太と同じ布団で寝たい」
と言ってきて、「じゃあ」という事で同じ布団に2人とも入った。
しばらくして、恵里菜が啓太の腕を突っついてきた。
「啓太、何にもしないの?」
「何もって、なにを?」
啓太は頭が混乱してオウム返しに聞いてしまう。
すると、恵里菜が、
「私達結婚するんだよ?」
と言ってくるので「そうだね――」と返す啓太。ぶっちゃけ頭の中が沸騰しかかってる啓太であった。それなりに経験があるのに、こういったシチュエーションは初めてでどうしたらいいのか訳わかんなくなってる啓太だった。
「もう!わかってるっ癖にい――」
と恵里菜が啓太にキスをしてくる。しかも濃厚に。そこで啓太のなかで何かがプツンと切れたのであった――。
☆☆☆ ☆☆☆
翌朝――
啓太は何かに突かれる感じがして目を覚ました。
そこには満面の笑みの恵里菜が啓太を見つめていた。
「フフフ、起こしちゃった♪」
恵里菜と交際してからこんなに機嫌の良い恵里菜は初めてだった。
「お、おはよ――」
「おはよ、啓太」
とまだ目が半分しか開いていない啓太のほっぺにキスをしてきた。
「ン――、なんかすごいご機嫌だね」
と啓太が聞くと、さらに満面な笑みを浮かべた恵里菜が「うん!」と啓太に抱き着いてくる。腕に当たる柔らかい感触、そして昨夜何をしたかをだんだんと思い出してきた啓太。
そう、つまりは朝チュンである。
そして恵里菜は啓太に愛されているという一番の証を受けて満面の笑みなのであった。
「ねえ、啓太――」
「赤ちゃん来てくれるかな?」
というので、
「そうだね、来てくれると嬉しいよね」
と恵里菜の頭を撫でながら啓太は言った。
「うん!来てほしい。啓太の赤ちゃん」
「でもまずは式を挙げないとね」
「パパは真面目だなあ」
と、恵里菜はそう言ってまた啓太のほっぺにキスをする。
「パパって、まだ先だし――」
「先でも慣れておかないと。私もいずれママになるんだから」
「そりゃまあ、そうなんだけど――」
と啓太が返すと、恵里菜がとんでもないことを言い出した。
「じゃあ、これから二人きりの時はパパ、ママって呼び合うのどうかな?」
「え?それはちょっと早いんじゃないかな?――」
「そお?でもきっとすぐだと思うな――」
「まあ、結婚してからでも大丈夫な気もするんだけどな――」
「じゃあ、結婚したらそう呼び合おうね、パパ」
満面な笑みの恵里菜なのであった――
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