第18話 婚前旅行

「わー、海が青ーい!」

「あれが鬼の洗濯岩かー」

「凄いねー、自然でここまでできるんでしょ?」

「ホント、自然には適わないよなー」

「ねー」


 休暇に入った啓太と恵里菜は宮崎に来ていた。

 

 

 

 遡ること二週間前――

 2人は旅行会社に行き。そこであれやこれやとパンフレットを貰ってきたのだが、どれもあまりピンとこなかった。

 

「なんかこう、一捻りほしいところよねー」

「気が合うな、俺も同じこと思ってた」

「でしょー。なんかこうアクセントがないかなー」


 その夕方、隊員食堂で夕食を取り、売店PXでアイスクリームなんぞ食べながらテレビを見ていると、夕方のローカルニュース番組で「南国宮崎特集」なるコーナーをやっていた。

 

『宮崎は日本神話発祥の場所ともいわれているんです。この宮崎には浦島太郎伝説の基になった神話もありまして――』


 と、恵里菜も啓太も「浦島太郎伝説」というところに食いついた。

 

「宮崎、宮崎はノーマークだった!」

「そういや、宮崎って神話がたくさんあるんだっけ?」

「そうなの?」

「そうそう。確か天孫降臨も宮崎じゃなかったっけ?」

「何それ?」

「ハ?」

「いやだから、そのてんそんなんとかって――」

「恵里菜、日本神話ってどんだけ知ってる?」

「んーと、卑弥呼とか――」

「いや、それ神話じゃないから――」

「え、そうなの?」

「卑弥呼は神様ではないからね――」

「ええー!」

「じゃあ、ちょっと日本神話を話してあげるよ」


 と啓太が日本神話をかいつまんで話していく。

  

「じゃあ、浦島太郎ってそのヤマサチヒコとトヨタマヒメの神話のことなんだ――」

「うん、そういわれてるね」

「へえ――」

「あとこの二柱の神様が新婚時代を過ごしたって神社も宮崎だったと思うよ」

「何それ!超いいじゃん!私、宮崎に行きたい!」


 といういきさつがあり、2人の旅行先は宮崎になったのであった。


 

 という事で、福岡から小倉経由で特急電車で宮崎入りした2人。

 恵里菜は、啓太お気に入りの下川家に挨拶に行った時に恵里菜が来ていたワンピースに、

 そして、啓太はデニムのカジュアルスーツを着ている。

 宮崎駅でレンタカーを借りて休暇中はレンタカーで移動することにした2人。

 というのも宮崎って移動手段がまるでなかったりする。基本福岡で仕事してかつ駐屯地内でほぼほぼ過ごしている2人にとって移動手段がないのは致命的ともいえるので、レンタカーを借りているというわけである。

 ちなみに借りたレンタカーはプリウスならぬアクア。しかも会員になると安くなるというそれだけで会員になった啓太。さすがドケチである。けどまあ今後も同じ会社のレンタカーを利用するというのならば会員になったほうがお得感はある。まあ会員になってすぐに10%の値引きされるのはおいしい。

 

 そして今2人はどこにいるのかというと、日南海岸である。

 所謂「鬼の洗濯岩」がきれいに見えるというスポットになっている「フェニックス」というドライブインに入っているのであるが、絵葉書ほどにきれいな風景ではなかった。

 というのもドライブインは景色が見れる展望台の道を挟んで向こう側にあるため、展望台へは道を渡る必要があるのだ。あと雑草が生い茂っていて、これには

 

 ――雑草管理ちゃんとしろよ

 

 と、思った啓太であった。

 恵里菜はというと、海岸に見える鬼の洗濯岩にメロメロである。

 ひとしきり見て回った2人はドライブインの建物内に入ってみた。宮崎の海岸にはアカウミガメが産卵に来るらしく、亀をあしらった開運グッズがたくさんあった。その中で恵里菜が気に入ったのは所謂「星の砂」だった。海岸端にある道の駅やドライブインでよく目にするものなのであるが、何というか宮崎の砂が使われているらしく、たいそう気に入ったので、啓太と2人分をご購入。

 啓太はというと、宮崎の伝承がまとめられた本が気になってご購入。

 2人でしめて1300円の買い物であった。

 ショップのおばちゃんに「ご夫婦?」と聞かれた2人は、今度結婚すると伝えたところ、

 

「あら、それなら青島神社に寄ったほうがいいわよ。あそこは山幸彦やまさちひこ豊玉姫とよたまひめが新婚3年間を過ごされたところだから。それから鵜戸神宮うどじんぐうもおすすめよ。あそこは豊玉姫が鸕鶿草葺不合尊うがやふきあえずをお産みになられたところだから」


 と教えてくれたので、とりあえず明日明後日の行動予定に入れてひとまず予約していたホテルに向かうことにした。

 ホテルは、青島グランドホテルを予約していた。

 というのも以前成美と健司夫婦もここに泊まったらしくて景色もすごく良かったからという話を聞いたからだった。多少ホテル代は奮発してもいいと思っていた2人なのだが、いざ予約してみると2人が考えていたほどの金額はしなかったので、その分をお土産に回せるねと2人は喜んだ。

 

 ホテルの駐車場に車を止めると、各々のキャリングケースを持ってエントランスに入った。宿泊代はすでにネットで払い込んであったため、利用者カードに氏名と住所を書いて部屋に案内してもらった。

 2人が予約した部屋は海側の和室で、落ち着いた雰囲気の部屋ながらも窓側の障子を開けた途端、青島海岸のパノラマオーシャンビューが飛び込んできて、恵里菜は啓太に抱き着いて大興奮。

 

 ――海岸が東側だから、早朝はきっときれいな朝陽が拝めるのだろうな。早朝のランニングとか気持ちよさそうだ。

 

 と啓太は大興奮でぴょんぴょん跳ねる恵里菜の肩を抱きながらそう思った。

 

 2人分のお茶を用意していた仲居さんから「ご夫婦ですか」と聞かれたので、啓太が今度結婚することを伝えたところ、屋上にがあるのでぜひ利用してほしいとの案内をうけて、そこまではさすがにと思っていた啓太を差し置いて、

 

「貸し切り露天風呂?入ろうよ啓太!」


 と恵里菜は意味が分かってるのかわかっていないのか入る気満々である。

 で、啓太がまた今度と断ろうとしたところ、恵里菜が空いてる時間を聞き、20時から50分間の枠で借りてしまった。料金は2500円と貸し切りにしては良心的な価格だなとは思ったものの、2人で一緒に入浴とかダメだろと思う啓太であったが、すでにお金を払ってしまったらしいので仕方なく入ることにしたのだが、恵里菜がオーシャンビューのとりこになっている間に、露天風呂に水着での入浴の許可を取り付ける啓太であった。

 

 ひとしきりオーシャンビューを堪能した恵里菜は、啓太の横に座ると、啓太の肩に頭をのせてスースーと眠り始めた。2人の初めての旅行でずっと興奮しっぱなしだったから疲れたのだろうとそのまま肩を貸したままにして、恵里菜の寝顔をスマホで撮るとその寝顔をホーム画面の壁紙にしてくすくすと笑う啓太であった。

 

 意外とというか、やっぱりというか、ムッツリな啓太なのであった。

 

 

「――ごめん寝ちゃってた」


 恵里菜は身じろぎしながら目を覚ました。

 まだ寝ぼけ眼なのだろう、半分しか目が明いていない状態で立ち上がろうとして失敗、そのまま啓太の股間めがけて顔から落下。


「ウグッ!」


 男にしかわからない急所を、恵里菜はものの見事に自分の顔でクリーンヒットさせた。

 啓太は悶絶しながらも涙を浮かべながら恵里菜を支えている。

 まだそういう経験がない恵里菜はどうしたんだろうと目をパチクリさせて視界の戻ってきた目で目の前にあるものを確認。フニフニしているものがなんであるかを理解するまで数秒。

 

「わ、わあっ!ご、ゴメン啓太。大丈夫?」

「だ、大丈夫――」


 と啓太は強がってはいるものの大丈夫であるはずもなかった。

 男にしかわからない痛みに耐えるしかない啓太なのであった。

 

 

 

「あ、ご飯、1900ひときゅうまるまるからだって」

「了」


 もう自分達がであることなんてどうでもよくなった2人。

 けど、ぶっちゃけこっちの方が気楽でいい気もしている2人。

 今は部屋の中だけども、食事はレストランでという事らしいので、この調子でいくとレストランでめっちゃ浮いてるカップルになることは必至。というかそんなことどうでもよくなっているのだろう。

 

 食事のあとで貸し切り風呂に行くので、お互いに隠れあって浴衣に着替える2人。

 しかも脱いだ服もしっかり畳んでおくところなど、自衛官の性というものなのだろう。実際、銭湯にいってきっちり畳んで入浴する人の多くに元か現職の自衛官がいるというのも頷ける話でもある。

 

「さ、行こう啓太」

「行こうか」


 と部屋を出ると、自然に啓太と腕を組んでくる恵里菜。

 ここ最近の恵里菜は啓太を腕を組んで歩くのが癖になってしまっているらしく、つい最近も駐屯地内でも腕を組んで歩くところを目撃されて注意を受けたばかりだったりもするのだが、ここは駐屯地内ではないため誰も文句を言う人はいない。

 駐屯地ならば啓太も恵里菜もを持つ自衛官であるため、誰もかかっていくものはいないのだがこういう民間だと命知らずな人間もごくたまにいたりする。

 

「くそ、あいついい女連れて歩きやがって――」

「やっちまいますか?」

「女は無傷でな」

「あいさ!」

「了解ッス兄貴!」


 ここにも3人程そういう輩が泊っているらしい。なぜこんなホテルにいるのかはわからないが、まあをするためにいるわけではなさそうだ。

 その3人が啓太達のあとをつける。

 ラブラブ光線出しまくりながら歩く2人はそんなことには気付いていないのだが、

 

「あ、忘れ物しちゃった」

「じゃあ取りに帰るか」


 と急に手を放してその場で方向転換して再び腕を組む啓太と恵里菜。訓練された自衛官同士だからこそできる芸当であるともいえる息ぴったりの2人。

  

「な、なんなんだあいつら――」


 別に気付かれても仕留めれば勝ちの状態で隠れてしまうあたり、この小悪党、肝が小さいのかもしれない。

 それならと部屋から出てきたところを捕まえようとドアの前で待ち構える2人。

 

 そんなところを一組の母子が横切った。

 

「ねえ、ママー」

「見ちゃいけません」


 と母親が僕ちゃんを制してさっさと行ってしまった。

 

「もう忘れものない?」

「うん、大丈夫ー!」


 と、中から声が聞こえてきて、突撃準備をする小悪党3人。

 

「でもあんまりお腹すいてないんだよねー」

「お菓子結構食ってたもんな」

「お菓子は別腹だもん!」

「それで太らないのが不思議なんだよなー」

「エッヘン!」

「威張るところじゃないから――」


 とドアを開けたところ何かに飛び掛かられそうになったので、啓太は条件反射で掌底を出した。

 その掌底が一人目の顎にクリーンヒットし、その頭が2人目の顎にクリーンヒットして2人とも失神。残る一人は一瞬の出来事に怯えて逃走。

 

「何があったの?」

「いや、なんか飛び掛かってきたから、つい――」


 と、啓太はやってしまったことの再現シーンよろしく掌底を出したポーズをとった。

 そして恵里菜は、その啓太の掌底と足元で伸びてる2人の男を交互に見る。

 

の掌底って最高の武器だと思うの、私――」

「同じく格闘徽章持ちが言うと説得力あるよなー」

「エッヘン!」


 いや、威張るところじゃないから――。

 とにかくこのままじゃいけないからとフロントに連絡して警備員さんに来てもらったところ、この辺りでも結構有名なゴロツキだったらしく、そのまま警察に御用となったそうな――

 

 格闘徽章持ち怖えー(棒)

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