泉優愛・9-5
「どうしてあたし達の人生を
「自殺イン子――現段カイ、人ゲん……対処フ能、Haん断。人間、無力――無ィ味」
「だからって……全部なかったことにするなんておかしい!」
相次いだ自殺、その原因の根本は黒い少女達にもわからないらしい。凛香の言葉を借りて表現するなら「意図せず発生した脳のバグ」。だから、それがない優愛をはじめとした何人かをピックアップし、この偽物の世界に連れ出した。全て忘れて生活できるよう、偽の記憶まで植え付けて。
話の規模が壮大で、中二病が再発したのかと思われそうだ。以前の世界で過ごした記憶も、いわゆる前世の記憶のようなもの。中学生にありがちな妄想と同じである。
だが、全て本当のこと。現実で起きていることで間違いないのだ。
「そりゃあ、あたしはみそっかすな女子中学生だよ。頭は悪いし運動も下手っぴ。部活もやりたくなくて、万年底辺を這いつくばっている劣等生だって、自分でもわかっている……」
思い返せば、今までの優愛は酷いところばかりの女の子だ。少女漫画の主人公を気取るつもりはないが、華やかさもドラマチックさもない、平坦で地味で落ちこぼれな人生。もしスポットライトがあたっても、誰ひとり見向きもしないだろうつまらないストーリー。
「でもね、それでも必死で生きてきた!いつも頑張って努力してきた……って言うと嘘になるけど、あなた達に無意味だなんて言われる筋合いはない!神だかなんだか知らないけど、勝手にあたし達の人生を決めないでよ!」
だが、高いところから見下ろして、身勝手に決めつけていいわけがない。たとえそれが神に等しい存在であっても。否、本当に神であるのなら黙って見ていてほしい。大した御利益もないのだから、余計なことをしてほしくない。
琴子に言われた言葉を引用すれば、優愛は「選ばれた者」だ。しかし与えられたものをただ
ぱっとしない青春だって優愛の生きた証。もちろん文句なしの最高な人生、というわけではないのは事実。だが、それでも誰かの好きにされたくない。なかったことにされるなんてもっての
「想TEぃ外――記憶、
黒い少女が手を
「くぅっ……。また忘れさせようとしたのね……!」
以前のように記憶を上書きして、偽物の世界に順応させようとしたのだろう。だが、どうやら耐性ができたらしい。黒い少女の姿が少しずつ見えるようになったのと同様に、彼女達の力に対して段々慣れたようだ。それとも優愛自身に、なんらかの力が芽生えたのかもしれない。
どちらにせよ、改ざんに耐えた優愛に驚きを隠せないらしく、少女の口は半開きにになったままだ。
――本当に予想外みたい。
ずっと無表情で淡々と職務をこなしてきただろう黒い少女が、不測の事態に呆けた顔を晒している。
それはまさに一矢報いた瞬間。
彼女達に対抗する方法があるのだと証明しているかのようだった。
「コ体の記オく――立しょゥ不可能、ゆメ、まBoロシ。再構ちク前、キ憶、残シ……無価値」
黒い少女は後ずさりながら、ぶつぶつとノイズ混じりに
言いたいことは不思議と理解できる。
かつていた世界の記憶はただの長い夢で、今いる世界の方が正しい現実。消えてしまった世界なんて証明できないのだから、夢と現実を混同しているだけなのだ、と。負け惜しみのように漏らしているのだ。
確かに、唯一の証拠はかつての世界で生きた記憶だけであり、それが真実だと証明するのは現状不可能だ。晴樹の理屈で言うところの、「証明できなければそれは存在しない」ということ。虚構と現実の狭間で宙ぶらりんなのだ。
「否定はしないよ。全部、あたしの妄想ってオチなのかもしれない」
「それでも、あたしはあたし自身を信じる!誰かから言われたわけじゃない。あたしが見たもの聞いたもの、それが全部真実なんだって!あたしは絶対に証明してみせる!」
現状、頼りになるのは自分の意志と記憶だけ。
たったそれだけの、細い糸のように
人智を越えた存在を相手にするなんて無謀な挑戦なのかもしれない。この世界で全てを忘れて平穏に暮らした方が楽なのかもしれない。
それでも優愛は、絶対的な力に立ち向かう。自らの意志を押し通そうとする。
「……――」
暗闇に溶けていくように、黒い少女はいなくなってしまった。
自分達人間とは違う場所にいるであろう、超常的ななにかの元へ帰ったのだ。
優愛の宣言は、そのなにかにとって不都合なのかもしれない。これから神罰まがいの恐ろしいことが起きるのかもしれない。全ては運命の
「やってみせる……必ず」
だが、諦めない。
自分を
優愛はもう、以前の優愛ではなかった。
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