Phase4:Shutdown
藤宮琴子・2-1
“終わりの前では全てが無力。
既存の枠組みで作られた救いに意味はないのだ”
――やっぱり、友達なんてろくなもんじゃない。
窓を叩きつける雨のドラムビートをBGMに、怪しげなグッズが敷き詰められた部屋の中、琴子は一人
幽霊と接点のある優愛と仲良くなれば、自分にも怪異と触れ合うチャンスが回ってくると思っていた。しかし、その
謎の妖怪が関わっているかもしれない、という重要な情報が手に入ったというのに。一体誰のおかげだと思っているのか。恩知らずにもほどがある連中だ。
手の中に収まる、
{さっきは凛香ちゃんが騒いじゃってごめんなさい)
{ビデオチャットのダイダラさんには「色々教えてくれてありがとう」って伝えてほしいな)
{またなにかあったら連絡するからね!)
{全然返信ないけれど、もしかしてすごく怒ってる?)
{当然だよね……。琴子ちゃんは、あたしのために頑張ってくれたのに)
{気持ちが落ち着いたら、また連絡してほしいな)
{そろそろ返信してほしいんだけど、いいかな?)
{琴子ちゃん、大丈夫?)
{無事だよね?変なこと起きてないよね?)
{ねぇ、怒っててもいいから返事して。なにも連絡がないと怖いの)
あれから優愛から何度もメッセージが届いているが、ことごとく無視している。既読スルーだ。向こうは気を遣っているようだが、すぐに迎合してしまったら溜飲が下がらない。幽霊が見えている彼女は常に不安でいっぱいだろう、もっと嫌がらせをしてやりたい、というささやかな悪意も芽生えていた。
チャンスを掴むためとはいえ、猫なで声ですり寄った自分が恥ずかしい。友達なんて下らない関係を築いたところで
友好的な優愛だって、いつかは自分のことを気味悪がるようになり、距離を置いてしまうに決まっている。今まで興味本位でオカルト事に首を突っ込んだ女子は、ひとり残らず同じ反応をしてきたのだ。十中八九、彼女も同類に決まっている。
琴子の辞書から「信用する」という言葉はとうの昔に失せていた。
裏切られて傷つくくらいなら、最初から誰も信じない方がよっぽどいい。少なくとも、現実世界は嫌なことばかりで、関わらない方が身のためだと改めて知った。
『……猫娘ちゃん、聞こえているかな?』
デスクトップパソコンのスピーカーから、肥満気味な男性特有の低くこもった声が響いた。オカルトコミュニティの一員であり、情報通のダイダラがモニターいっぱいに映っている。
前回のビデオチャットは散々な幕引きになってしまったが、実はあれから毎日、二人はカメラ越しに話し合うようになっていた。元々ディープなオカルトマニアだった二人だが、素顔を晒し合ったおかげで両者を隔てていた壁がなくなり、急速に距離を縮めていたのだ。もちろん物理的な距離ではなく精神面の話だ、リアルで会う段階には進んでいない。が、それも悪くない、と琴子は思っていた。
――友達なんていらない。だって、ネットに仲間がいるんだから。
皮肉にも、同級生を自室に招き入れたのが、ネットへの依存を加速化させる要因になっていた。社会的には悪い状況と言えるだろう。だが、琴子にとっては満足だった。コミュニティ内でも随一の知識量を誇る彼とお近づきになれる。それは名誉であり、弟子か
いくらネット上の関係とはいえ、ダイダラは現実に実在する人物であり、彼と関係を持つことは同時に裏切られる可能性もついてくる。だが、ネットの仲間を過信する琴子はその矛盾に気付いていない。否、直視したくないのだ。
唯一の居場所すら現実同様に自分を傷つける、なんて残酷な事実を知りたくない。ぬるま湯でもいいから、心地良い空間にずっと浸かっていたいのだ。
「はいっ!聞こえています!準備も万端です!」
急いでパソコンの前に座る琴子の姿は相変わらずゴスロリ衣装だ。お気に入りのコーデであり、いわゆる勝負服とも言える。それに、これ以外にまともな服を持っていない。学校指定のジャージか体操服、よくて小学校時代に着ていたくたびれたTシャツくらいだ。人前に出せる代物ではない。
一方で化粧は上達している。
今日も楽しいオカルト談義が始まる。どんな話題を話そうか。昨日は未確認生物カテゴリが多かったから、今度は宇宙人関連の、UFOやミステリーサークルなどをメインにしてみようか。と、琴子は心を躍らせていた。
しかし、どうも画面の向こうの様子がおかしい。現役女子中学生とアングラな話をするのが楽しくて、いつも早口でテンション上がりがちなはずのダイダラが、ずっと
今日は中止した方が良いかもしれない。そう思って口を開こうとした瞬間、先に声を漏らしたのはダイダラだった。
『……ちょっと、聞いてくれないか?』
消え入りそうなくらいに、小さく
「き、聞きます聞きます!なんでも聞きますよ!」
琴子は即答した。
彼の話が聞けるのなら、どんなに下らない内容でも良い。それこそオカルト事とは直接関係しなくてもいいとすら思っていた。
――ダイダラさんと、もっとお近づきになれるのなら……!
だが、飛び出してきたのは意外で、ある意味聞きたくなかった言葉だった。
『僕も見たんだ……黒い女の子の幽霊』
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