泉優愛・6-4
昼の休憩時間が終わったので、芽衣達
「そうだ、関係あるかわからないんだけどさ」
別れる直前、芽衣はそう前置きして、とある疑問を口にした。
それは優愛も、なんとなく不自然に思っていた、ここ最近のある傾向だった。
「あの子を見始めた頃からなんだけど……自殺する人、めっちゃ増えている気がするのよね」
その一言が、ずっと頭の片隅にこびり付いている。
午後の試合は我が校の全敗で終わった。
バスに乗るだけの単調な帰り道で、優愛はずっと芽衣が言い残したことを
自分が黒い少女を初めて見たのは、ちょうどクラスメイトの母親が自殺した現場を見に行った日だ。それにその日の朝には、俳優の氷室一真が自殺したニュースが報道されている。しかもその一週間ほど前には女優が、直近では一般人の自殺や無理心中の報道も多数されていた。
芽衣の言う通り、少女を見始めた時期と自殺の増加はまるで示し合わせたかのように一致している。もちろん、偶然と切り捨てるのも可能だ。国内の年間自殺者数を考えれば、有名人や周囲の人間が同時期に自殺する可能性だって決して低くはないだろう。母曰く、昨今の不況や世の中の動向から、自殺の増加も頷けるらしい。だがそこに、自身の幽霊目撃という特異な条件を当てはめると、どうしても両者を関連づけて考えてしまう。
もしかして、あの少女は死神の類いなのではないのか、と。
死神といえば、死期が近い者の前に現れてその魂を回収するという、
書籍の情報や宗教観を
黒い少女が現れるようになった時期と、自殺者の増加が一致している。とすると、彼女は未来で自殺する人にその事実を伝えに来ているのか。いや、最悪のパターンを考慮すると、病原菌のように自殺を振りまいたり、悪魔のように自殺を
もし、この仮説が正しいのだとすれば、次に自殺するのは自分や芽衣など、黒い少女が見えている者なのだろうか。
ピコン。
スマートフォンが告げる通知音に、過剰反応してビクついてしまう。
琴子からの返信だった。
遠征先で同様の幽霊を目撃する人と出会ったこと、“ぷろとく”“くろうら”という謎の単語を知ったことなどをラインで送っていたのだ。マニアの彼女ならなにか知っているかもしれない、と期待を込めて。
メッセージには、こう書かれていた。
{“ぷろとく”と“くろうら”で、ピンとくるものはないですねー。ちょっと知り合いの情報通に聞いてみます!)
残念ながら、琴子に心当たりはないそうだ。オカルトマニアとはいえまだ中学生なのだから、蓄えた知識量にも限界があるだろう。間違った知識と知らずに語る大人や無知のまま社会に出た大人がいるくらいなのだから、同学年に期待を寄せ過ぎるのも酷である。情報通にヘルプを求めるそうだが、顔も素性も知らない相手なので、こちらも半分くらいの期待にしておこう。願わくば自殺を呼ぶ存在ではないと、安心材料になる情報を持ってきてほしい。
カーテンの隙間から
百合ヶ浦に到着する頃には、辺り一面真っ暗になっているだろう。そして、一人で帰る夜道には黒い少女がいるはずだ。自殺を呼び込むかもしれない、死神のようななにかが、ぽつんと現れる。
自分の仮説が正しいとは限らない。足らない頭を必死に回転させて弾き出した説なのだから、むしろ外れている可能性の方が高いのだ。断片的な情報と奇妙な一致を掛け合わせて、勝手に妄想して怖がっているだけなのかもしれない。
クラスメイトの男子がふざけて言い張っている「オレは
それでも、一度考え出したら、とことん落ち込んでしまうものだ。これが保健体育の授業で習った、思春期は気分の波が激しいという状態らしい。自分の気持ちを制御できなくて辛い。
いくら自身を客観視したとしても、思考が勝手に乱れてしまう。優愛は、そんな人並みの中学生だった。
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