Phase1:Install
泉優愛・1-1
“好奇心は生きる原動力だ。
その行き先が地獄だとしても”
東海地方のとある県に位置する海沿いの街。その高台に建つ校舎は常に海風にさらされており、
校舎は四階建てで、隣に建つ二回りほど小さい建物が旧校舎。それに体育館と運動場、プールが設置されただけの、面白味に欠けた学び舎。夏休みを目前にした校内は熱気が充満しており、窓を全開にしても汗が止まらないほど。朝の涼しさなんてあっという間で、始業のチャイムが鳴る前から灼熱地獄と化していた。やかましい
そんな学校の二年三組に在籍する少女、
そのニュースとは朝一番に聞いた、とある俳優の死に関する報道。しかも自殺。人気絶頂のさなかで自ら命を絶つ。兆候とおぼしき行動は今のところなかった、と報じられていた。
突然の
ただ、
――どんなに凄い人でも、死にたくなっちゃうんだ。
――じゃあ、あたしは?
それなら、自分のようなみそっかすな学生はどうなのだろうか。持たざる者の自分が「生きる」ことに、一体どんな意味があるのだろうか。漠然と考えてしまう。答えの出ない疑問が、脳内で渦を巻いてかき乱していた。
頭の足りない自分では答えが出るはずない、と理解していても、どうしてもその疑問に意識が向いてしまう。時間の無駄と言われたらそれまでだろうが、本人はそれなりに真剣に悩んでいる。哲学を学べば楽になれるだろうか、それとも余計にこんがらがってしまうのだろうか。どちらにしろ、ホームルームまでの時間でどうにかなる話ではなかった。
「おはよう、優愛……――って、どうしたの?」
「どうもこうもないって」
遅れて登校してきたのは、友人の
凛香との付き合いは小学校に通っていた頃からだ。きっかけは忘れてしまったが、気付けば仲良くなっていた。見た目も性格も趣味も、何もかも正反対な
「もしかして、氷室一真のニュース?」
「なーんで、自殺なんてしちゃったんだろーって」
「ま、誰だっていつかは死ぬものだから。元気出しなよ」
「そうじゃなくって。死にそうな理由がないじゃん、氷室一真ってさ。だって人生成功しまくりなはずだもん」
「ああ、そういう意味」
「うーん、ううむ……ダメだ。あたしにはさっぱりわからないなぁ」
「なんだ、お前。うーうー
真面目に悩んでいるところに余計な一言を入れてくるのは、幼なじみの
晴樹とは母親が親友同士という繋がりだ。赤ちゃんの頃から一緒に遊び合う仲で、まるで兄妹のように育ってきた。泣き虫なくせに無鉄砲な優愛は
「うるさいなぁ、晴樹には関係ないもーん」
「何だよ、その態度は」
「晴樹はその辺の女の子とイチャイチャしていたらいーじゃん。あたしは人生について、深く深ーく考えているところなんだから……」
「意味わかんねえ」
幼なじみとはいえ立場が全然違う、遠い存在になってしまった。晴樹はみんなの人気者で、自分はクラスの底辺を漂うモブキャラ女子。一緒にいるだけで劣等感がむくむくと湧き上がってくる。それでもこうして絡んでくるのは、いわゆる腐れ縁なのだろうか。今でもこうして関わってくれるのは嬉しい反面、彼との差を痛感して悲しくなってしまう。そんな矛盾を抱えてしまい、
「そういえば……。自殺と言えばね、私の近所で大事件があったのよ」
「事件?」
「穏やかな話じゃなさそうだな」
思い出したかのように、凛香が話し始める。口調からして良くない事件なのだろう。だが、多感な時期は闇のある内容に興味をそそられるものだ。優愛も晴樹も、どんな出来事なのか気になってしまう。
「朝早くなんだけどね、うちの近くに救急車とパトカーが来たのよ」
「うんうん」
「確かに朝はうるさかったな」
「それでね、何事かと思って見に行ったら……陽葵さんの家の前で止まっていたのよ」
「陽葵さんって、うちのクラスの?」
「まだ登校してないみたいだぞ」
身近な人の話となれば、
「多分、今日は来ないと思う。だって陽葵さんのお母さん、自殺したらしいから」
「えっ」
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