第121話

☆☆☆


夏夢から聞いた暗証番号でビルへ入った俺たちは、そのまま最上階へと階段で駆け上がって行った。



エレベーターはあったけれど、エレベーターには監視カメラがついているらしいのであえて使わないことにした。



ビルの最上階は白い廊下が奥へと延びていて、観音開きの赤い扉が1つ。



そして、その手前に2つ木製の扉の部屋があった。



夏夢から聞いた通りだ。



俺は木製の部屋を通り過ぎ、真っ直ぐに赤い扉へと向かった。



冬流の頭は、いつもこの部屋にいるらしい。



扉を赤にしているのは、冬流の強さをイメージしているのだと、夏夢は言っていた。



そこまで知っているということは、夏夢もかなり深い部分まで足を踏み入れていたことになる。



そして、抜け出すすべを失ったのだ。



「お前ら、気をつけろよ」



後ろにいるメンバーへそう声をかけると、誰もがみんな呼吸さえ殺しているように、静かにうなづいた。



そして、ついに俺はその扉を開けた……。



最初に目に入ったのは部屋に敷き詰められた赤いカーペットだった。



つぎに目に入ったのは、カーペットの上に立つ黒いスーツの男5人。



そして、後ろ向きで黒い革製のソファに座っている1人の男……。



俺たちが入って来た瞬間、スーツ姿の男たちが瞬時にこちらへ向き直った。



さすが、鍛えられている感じだ。



「誰だ!」



スーツの男の1人がそう言い、ほぼ全員同時に身構える。



すると、何事だと言うようにソファに座っていた男がゆっくりと立ち上がり、そして振り向いた。



あいつが……冬流の頭か……。



色白でヒョロリをしていて、目の下は青白い。



背も低く、とてもじゃないが組のトップだなんて思えないヤツだ。



「おやおや、君たちは街の不良君たちじゃないか」



そう言い、男はニヤリと歯をのぞかせて笑う。



カツカツと革靴を鳴らしながら俺の目の前まで歩いてきて「ケガの具合もよさそうだねぇ? 浜中大志君?」と、小首をかしげる。



やっぱり、こいつが仕組んだことか。



俺は返事をせずに男を睨みつけた。



「僕は君をこの組に歓迎したいんだが……どうだい?」



突然の申し出に、俺は一瞬固まってしまった。



なにを言っているんだ、こいつは。



千沙を危険な目にあわせ、俺にきがいを加えた連中だぞ?



「なにが目的だ」



そう聞くと、男は「ひゃははっ」と腹の立つ払い声をあげた。

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