第120話

~大志side~


千沙と別れ、俺は一度家へ戻ってきていた。



まっすぐ部屋に入り、特攻服を手に取る。



これを着るのは何度めになるだろうか?



今までも乱闘の度に着てきたが、目立った汚れはついていない。



でも……。



今回はそうはいかないかもしれないな。



もしかしたら、兄貴の大切な特攻服を血で汚すことになるかもしれない。



そう思い、ギュッと特攻服を握りしめる。



兄貴……どうか、俺を守ってくれ。



☆☆☆


太陽が頭上へさしかかった頃、数十台のバイクが俺の家の前に止まった。



「今日は俺もバイクを出させてくれよ」



仕事中でいない母親へ向かってポツリと呟き、玄関に置いてあるカギを手に取った。



この感触、久しぶりだな。



カギの冷たくてかたい手触りだけで、ゾクゾクと走りたい衝動に駆られる。



そうだ、今回のことがうまく行けばみんなで走行会を開こう。



走るのに適している道を探そう。



そんな事を考えながら、俺は玄関を開けた。



家を出た瞬間、数十台のバイクそれにまたがる特攻服を着た男たち。



それにバイクの後部座席ではためくチームの旗が見えた。



旗を持っているのはキョウとアツシ、それに松原と今津ほ幹部クラス2人ずつだ。



俺はそれを確認したあと、自分のバイクにまたがった。



久しぶりに握るアクセル。



その感触をたしかめながら、俺はエンジンを入れた。



1度ふかすと、懐かしい排気音がする。



「よし、お前ら、いくぞ!!」



その排気音に背中を押されるように、俺は走りだした。



後方から、メンバーがついてくる。



待ってろよ冬流……。



☆☆☆


夏夢から聞いた冬流のアジトまでは、走って20分くらいの場所だった。



テレビ局まではいかないけれど、大きくて綺麗なビルの前にたどりつく。



どうせこのビルだって、他人から巻き上げた金でどうにかしたんだろう。



俺たちはバイクを下り、そのビルを見上げた。



「ここの最上階だ」



おれがそう言うと、アツシが「セキュリティとか、問題ねぇの?」と、聞いてきた。



もちろん、それも夏夢から聞いている。



ビルへ入る時の暗証番号が必要なだけだ。



そしてその番号も、聞いている。



俺は自分の胸に手を当てて、一度大きく深呼吸をした。



必ず、生きて千沙の元へ帰る。



絶対にだ。



そう自分に言い聞かせ、一歩を踏み出した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る