第119話

☆☆☆


突撃の支度をするために一旦帰宅したメンバーたち。



その頃、俺は千沙を空き教室へ呼び出していた。



授業中だから来ないだろうと思っていたけれど、少し待っただけで息を切らした千沙が教室のドアを開いた。



「た、大志……呼んだ?」



肩で呼吸を繰り返し、額にはかすかに汗が浮いている。



「お前、走って来たのかよ」



「だって……大志からメールなんて、久しぶりだから」



そういえば、そうだったか。



一応互いの番号やアドレスは知っていたけれど、頻繁に連絡をとるようなことはなかった。



まぁ、元々家が隣だしな。



「今、授業中だろ」



俺がそう言うと、千沙はふくれっ面をして「大志が呼んだんでしょ」と、言った。



「そう怒るな」



俺は千沙の頭をいつものようになでた。



すると突然、千沙が俺の胸に顔をうずめてきたのだ。



両手がしっかりと背中にまわされる。



「おい、どうした?」



至近距離に、一瞬頭が真っ白になる。



けれど俺は千沙を優しく抱きしめた。



「大志があたしをここへ呼ぶなんて、珍しいから」



「は?」



「……なにか、あるんでしょう?」



その言葉に、俺の心臓がドキッと跳ねる。



千沙は俺のことをなんでも見透かしているようだった。



「……今日、悪い連中をやっつけてくる」



「赤旗じゃなくて?」



「あぁ。もっと、悪い連中だ」



千沙が、俺を抱きしめている手に力を込めた。



だから、俺も抱きしめ返す。



「それって、すごく危険なんだよね?」



「……そうだな」



「……嫌だって言っても、行くんだよね?」



「あぁ。行く」



「じゃぁ、1つだけ約束して?」



「なんだ?」



千沙が、涙でうるんだ目で見上げてきた。



長いまつげが、濡れてキラキラと光っている。



「必ずここに、帰ってきて。あたしの元に」



千沙の指先が、俺のミサンガに触れた。



きっと、すべてがうまく行ったとき、このミサンガも切れるだろう。



「約束する。俺は必ず、お前の元へ戻る」



そして俺は、引き寄せられるように千沙の頬へキスをした。

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