第76話

受話器の向こうでムキになって怒る瞳をなんとかなだめて、俺はバイト先を聞き出し、電話を切った。



しかし……。



あんな小さいくせにいろんなもの背負ってるんだな。



昨日、うずくまって震えていた瞳を思い出し、俺は少しだけ、切なくなったのだった。


☆☆☆


瞳のバイト先は普通のファミリーレストランで、それを知った俺はなぜだか安心していた。



昨日会ったばかりでロクに知らない女。



心配してやる義理だってないハズなのに、危ないバイトをしているのではないかと、バイト先の名前を聞くまで、正直ハラハラしていた。



俺らしくないな……。



そんな事を思いながら、約束通りファミリーレストランの駐車場にバイクを止め、従業員出入り口がある裏手へと向かった。



すると、ドアの前で携帯電話をいじりながら立っている小さな女が目に入った。



昨日とは違い、血色がいい。



「よぉ」



俺がぶっきらぼうに声をかけると、瞳がこちらを向いた。



昨日はうつろだった目が、今日はしっかりを俺を見ている。



よかった。



本当に大丈夫そうだ。



すると瞳は小さな歩幅でトトトッと小走りに俺へ近づいてきた。



ペコッと頭を下げてきたのだ。



「昨日は、どうも、ありがとうございました!」



「あぁ……。別に。オヤジのライブハウスでぶっ倒れられたままじゃ、困るから」



「それでも、助けてくれてありがとう」



瞳はそう言うと、ニコッと笑った。



頬に浮かんだえくぼが、幼く見える瞳を更に幼く感じさせる。



「さぁさぁ、立ち話もなんだから、うちのバイト先でご飯でも食べながら話そうよ」



「あぁ? 俺は別に腹へってねぇし」



瞳に写真の刺青を確認させたら、すぐに帰る予定だった。



しかし、瞳は俺の背中を押してファミレスの表へと回り、そして店のドアをあけた。



「2名様来店でぇす」



と、自分で言って仲間の従業員と笑い合っている。



ったく、なんだよこの女。



好き勝手しやがって。



そう思いながらも仕方なく席に座ると、厨房からただよってくるいい香りに不覚にもお腹がなってしまった。



「ほぅら。お腹減ってるんじゃない」



「今、減ったんだよ」



「はいはい。今日はあたしの奢りだから、たんと食べ。力耶君」



「チッ」



俺は軽く舌打ちをして、メニューを広げたのだった。

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