第68話
~千沙side~
あたしは力耶と一緒に近くのファミリーレストランに来ていた。
4人掛けのテーブルで向かい合って座るのは、なんだか奇妙な気分。
そういえばあたし、大志以外の男の子とこうして2人きりで食事をしたことなんて、ないかもしれない。
「とりあえず、飲み物くらい頼むか」
「そ、そうだね」
少し緊張しながらもオレンジジュースを注文すると、力耶はチラチラと店内の様子を気にしながら、口を開いた。
「お前は、大志からほとんど何も聞いていないんだよな?」
「うん。 自分たちの下っ端に目を光らせるためにチームを合併させたって。大志から直接きいた話は、それくらい」
「赤旗のことは?」
「最近、すごく警戒しているなってことは分かっていたんだけれど。その理由までは知らない」
そう答えた時、注文したジュースが運ばれてきて一旦会話が途切れた。
オレンジジュースの中の氷からカラカラと音を立てて、涼しげだ。
「そうか……。それなら、お前が動き回るのも無理はないか」
その言葉に、あたしは視線をジュースから力耶にうつした。
力耶はグッとテーブルに身を乗り出し、近づいてきた。
その距離に一瞬たじろくが、すぐに周囲に会話を聞かれたくないからだと気が付き、あたしは力耶の隣へ移動した。
「実は、赤旗はドラッグや詐欺に手を出しているらしい。女や子供も恐怖で縛りつけ、仲間にして力を伸ばしている」
ボソッと言われた一言に、あたしは一瞬悲鳴をあげそうになる。
両手で口を覆ってそれを我慢する。
「それ……本当なの?」
「あぁ。だから、お前みたいに大志と一緒にいる女は危ないんだ」
「だから、1人で出歩くなって言ってたんだ……」
あたしはようやく大志の気持ちを理解できた。
そして、ひどく胸が痛んだ。
赤旗はただの不良チームじゃないかもしれないんだ。
もしかしたら、裏にもっと大きな、危ない人たちがついている可能性がある。
だから、大志はあたしに真実を伝えられなかったんだ……。
「で、でも。どうして大志はあたしにミサンガを作らせたりしたんだろ?
あたしの性格を知っているなら、首を突っ込みたがる事はわかってたハズなのに」
そう言うと、力耶は「それも、あいつの優しさだったんだよ」と、言った。
優しさ?
「すべてを隠そうとしても、きっとお前には何か隠しているとバレてしまう。
バレてしまえば、無茶な行動をとる可能性がある。
そう思ったから、わざとお前にミサンガを作らせたり、少しだけ集会に参加させたりしたんだ」
あたしを、安心させるためだったの……?
「あたし……大志のこと、なにも知らなかった……」
そこまであたしの事を理解して、先に手を打とうとしてくれていたことなんて……。
それなのに、あたしはそれだけでは満足できず、1人でこんな所まできて……。
「ショックか?」
「うん……」
「でも、本当のことがわかったんだ。もう無茶はしないと約束できるな?」
「……うん。約束する」
小さな声で、あたしは答えた。
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