第60話

~千沙side~



力耶に家まで送ってもらうと、バイクの音を聞きつけた勇士さんが隣の玄関から顔を出した。



「勇士さん……」



「おぉ、千沙。大丈夫だったのか」



何も話していないのに、ホッとした表情を浮かべる勇士さん。



元々チームの頭だったから、だいたいの予想はつくのだろう。



あたしはキュッと下唇を噛んだ。



「大丈夫じゃないよ……」



「え?」



「全然大丈夫じゃないよ! 大志が……大志が、あたしのせいで……!!」



また、涙があふれ出す。



「大志ならきっと大丈夫だ。心配するな」



そう言って、勇士さんの大きな手があたしの頭を撫でた。



「この人が、大志の後を追いかけろって言ってくれたんだ」



力耶が、勇士さんを見てそう言った。



「あぁ。大志が真剣な顔して1人で出ていくから、きっと千沙に危険が及んでいるんだろうなって思ってな。


本当は俺がこっそり後をつけようと思っていたんだけれど、ちょうどいいタイミングでこいつと、もう1人の強って男が家に来たから大志の追跡を頼んだんだ」



そうだったんだ……。



あたしは、改めて勇士さんと力耶と強に感謝した。



ショックで動けなくなっていたあたし1人じゃ、救急車を呼ぶことだって困難だった。



「ありがとう勇士さん……。力耶も、本当にありがとう」



お礼をしても、しきれない。



「ま、起こったことは仕方ない。大志は病院だろ? あとで俺が見舞にでも行ってやるから、千沙は大人しく家にいろ」



勇士さんそう言われ、あたしは素直にうなづいた。



そして回れ右をして家に戻ろうとしたとき……。



見知らぬ美少女が少し離れた場所に立っていた。



長い黒髪をポニーテールにしてピンクのリボンで止めている。



白いワンピースを身にまとう、線の細い子だ。



誰……?



全く見覚えのない美少女に、あたしは首をかしげる。



でも、こんな場所に立っているということは、誰かの知り合いだと思う。



あたしは、そっとその美少女に近づいた。



美少女は少し戸惑ったような表情を浮かべて、あたしを見る。



「あの、何か用ですか?」



そう聞くと、美少女はおずおずと口を開いた。



「あ、あの。あたし強君に用事があって……」



その声は細く、凛とした声だった。



「強は、今いないけれど……」



「そうですか。じゃぁ、いいんです」



そう言って、ぺこっとお辞儀をする美少女。



帰ろうとするその腕を、あたしは掴んで引き止めていた。



「ちょっと、待ってください。強に会いにここへ来るってことは、大志たちのことも知っているんじゃないですか?」



「あ……はい。実は、強君に1度だけここへ連れてきてもらったことがあって、それで……」



やっぱり、そうなんだ。



強は集会所だけでなく、大志の家にも女の子を呼んでいたんだ。



しかも、こんな美少女を。

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