第56話

~大志side~


俺は携帯をジーパンのポケットへねじ込み、バイクにまたがった。



カナタは港の倉庫だと言っていた。



だとすれば、もう目指す場所は1つしかない。



このへんの不良グループがタムロしたり、喧嘩の場所として使っている所だ。



きっと、あそこに千沙はいる。



バイクにキーを差し込んで回そうとした時、「大志、出かけるのか?」という声が聞こえてきて、俺は振り向いた。



そこには、子供を抱いた奥さんと一緒に、兄貴の勇士が立っていた。



久しぶりに、実家に顔を出しに来たのだろう。



手にはお土産の袋が握られている。



「あぁ。ちょっと、行ってくる」



「おい、大志」



兄貴が俺の名前を呼び、腕を掴む。



「なんだよ」



一刻も早く千沙の元へ行きたい俺は、久しぶりの兄弟の再会を楽しんでいる暇はない。



「切羽詰まってるみたいだな。1人で平気か?」



「あぁ……たぶんな。でも、1人で来いってのが相手の要望だ」



「そうか……」



兄貴はすぐに察したのだろう、俺の腕をパッと離した。



「気をつけて、いってこいよ」



「あぁ。じゃぁ、行ってくる」



俺は兄貴に軽く手をふり、バイクを走らせたのだった……。


☆☆☆


港へはほんの5分ほどで到着した。



いつもの数倍は飛ばしてきたから、当然か。



港のすぐ近くには、灰色の大きな倉庫が置かれている。



俺も、喧嘩の時に何度も足を運んだ場所だ。



俺は、バイクを置くと倉庫のシャッターの前に立った。



この中にカナタと千沙がいる。



「カナタ!! 1人で来たぞ!!」



俺は、シャッターへ向かって声を張り上げた。



すると、すぐに向こうから「よく来たな。今、開ける」という声が聞こえてきた。



それは、まぎれもなくカナタの声だった。



自動のシャッターが低い音を立てながら開いて行く。



ゆっくりゆっくりと時間をかけて開くシャッターを、俺はイライラしながら見つめていた。



そして、扉が半分ほど開いたとき……。



不意に、後頭部を殴られその場にうずくまってしまった。



しまった!



倉庫の外に敵が1人いたのだ。



うずくまる視界の中に、男の足が見えた。



俺は咄嗟に、体勢を低くしたままその足に蹴りを入れた。



不意をつかれた相手が地面に倒れ込んだのを見計らって、その体に馬乗りになった。



この野郎。



千沙をこんな場所に閉じ込めやがって、絶対に許せねぇ!!



次々と湧いてくる怒りをぶつけるように、俺は相手に殴りかかった。



何度も何度も、繰り返し相手の顔を殴る。



こいつが誰なのか、俺は知らない。



でも、千沙を傷けるやつは全員俺の敵でしかない。



散々殴ったあと相手が気絶し、ピクリとも動かないことに気がついて、俺は手を止めた。



このまま海に投げて捨ててやろうかと思ったが、今は千沙を助けることが先決だ。



俺はすべて開ききった倉庫の前に立つ。



倉庫の中央あたりに、椅子に拘束されている千沙の姿があった。



「大志……!」



俺を呼ぶ千沙の声はか細く震えていて、俺は更に怒りを掻き立てられた。

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