第57話

「カナタ、出てこい!!」



一歩倉庫へと踏み入れ、そう声をあげる。



しかし、カナタの姿はどこにも見当たらない。



この倉庫内に身を隠すとすれば、奥の方に置いてある雑多の荷物の間くらいしかない。



とりあえず、俺は千沙を拘束しているロープをほどくことにした。



ロープは細い千沙の体にきつく食い込み、手首には赤く跡が残っていた。



「千沙、平気か?」



「大志……どうしてきたのよ」



千沙が、泣き出しそうな顔で俺を見る。



俺は、自然と千沙の体を抱きしめていた。



こんなに小さくて、こんなに華奢な千沙を、ほっておくワケがないだろ?



「千沙……。俺は、お前のためならなんだってできるんだ」



「え……?」



「知らなかったろ? もう、ずいぶん前からだ。俺が、お前に……」



『惚れているのは』



そう、続けたかった。



けれど、俺の言葉は続かなかった。



鋭い痛みが、背中に走る。



千沙が、腕の中で悲鳴を上げる。



もう、大丈夫だから。



もう、そんな悲鳴を上げる必要はないから。



だから……一緒に帰ろう。



千沙……。



俺の大事な……お姫様……。



意識はどんどん薄れていき、俺はその場に倒れ込んだんだ……。

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