第50話

~千沙side~


会場の外に出ると、あたしは思いっきり空気を吸い込んだ。



会場内の男たちの熱気に包まれていると、なんだか呼吸も苦しくなってくる。



「千沙、大丈夫?」



恋羽が心配して、あたしを見る。



「うん、大丈夫。毎回、男たちの熱気はすごいね」



「そうそう、大志君の言葉に全員が一喜一憂している様子なんて、すごいよね」



そう言って目を輝かせる恋羽を、アツシがハラハラした様子で見つめる。



恋羽が大志の事を口に出すのが不安なんだろう。



でも大丈夫。



恋羽が恋心を抱いているのはアツシ1人なんだから。



だって、恋羽がアツシの話をするときと大志の話をしているときは、明らかに表情が違う。



大志の時は憧れで目が輝いている感じ。



アツシの時は、優しい目をしている。



それって、似ているようで全然違うと思うんだ。



そんな事を考えていると、「ねぇ、なんであたしの事呼んだのよ」と、強の彼女が言ってきた。



「あ、えっと……」



名前を呼ぼうとして、口を閉じる。



そういえば、自己紹介してないんだった。



前回のリカさんよりも派手で、どこか近寄りがたい雰囲気だ。



「あ、あの、名前は……?」



「あたしの名前? サヤよ」



そう言って、サヤさんはピンク色のピアスを指先でいじった。



「サヤさん、はじめまして。あたし、千沙」



「ふぅん? で、千沙はなんであたしの事呼んだのよ」



サヤさんのその声は感情がなく、あたしを責めているようにも聞こえて、少しだけ身をすくめてしまう。



「一緒に……帰った方がいいかなって……思って……」



「なんで? あたし集会終わったら強の家に行く予定だったんだけど」



やっぱり、そうなんだ。



リカさんも、同じことを言っていた。



「で、でも。強は……その……」



女遊びが激しいから、やめておいた方がいいよ?



なんて、なかなか言えない。



あたしはうつむき、モゴモゴと口を動かすだけだった。



すると、サヤさんが不意に噴き出したのだ。



あたしが驚いて顔を上げると、サヤさんはお腹をかかえて笑っている。



「あはははっ! 千沙、あんたもしかして、あたしの心配してる?」



「え……ま、まぁ……」



「そんな心配なんてあたしには必要ないのに。強もあたしも、ただの遊び相手なんだから」



遊び相手……。



あたしは、その言葉に返事ができなくなってしまった。

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