第49話

「な、カナタ」



俺はカナタに視線をやる。



カナタは、無言のまま頷いた。



チラリと千沙の方へ視線をやると、千沙はカナタの痛々しい姿から視線をそらせていた。



やっぱり、千沙にリアルを伝えるのはよくない。



俺はアツシに視線を送った。



ステージ上にある時計を指差し、30分が経ったことを知らせる。



すると、アツシはすぐにそのメッセージに気がついて、千沙と福元に声をかけて、出口へと移動しはじめた。



それを見ていると、千沙がふと何か思い出したように立ち止まり、キョロキョロと周囲を見回し始めた。



なに、やってんだ?



千沙がいたら、本題へ入れない。



できるだけ早く帰ってほしいのだが……。



そうしている間に、千沙は1人の女に気が付き、そちらへ手を振って「一緒に帰ろう」と、大きな声を出した。



あれは確か、強が今日連れてきた女だ。



突然千沙に声をかけられた女は、戸惑ったように目をパチクリさせている。



少し離れた場所では、強が眉間にシワを寄せているのが目に入った。



その様子に俺は思わず笑ってしまいそうになる。



強が集会後家に招く予定だった女を、千沙が連れて帰ろうとしているのだから、おもしろい。



なかなか動こうとした強の女に、俺は「一緒に帰れ、ここからは男の世界だ」と、きつめの言い方をした。



前回の女に比べれば裏の世界を知っていそうな女だったが、千沙同様に守ってやるのが正解だと思ったから。



俺の言葉に女はしぶしぶといった感じで会場をあとにした。



強はその様子にため息を吐き出し、俺を睨みつけてきた。



はははっ!



真剣に付き合わないお前が悪い。



俺は心の中でそう言って笑ったのだった。

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