第48話

やけに素直な千沙の態度に、俺は胸の中がくすぐったくなる。



俺は千沙の手を少し強引にひっぱり、会場へと足を踏み入れた。



俺たちが会場へ入った瞬間、わきおこる歓声と挨拶の声。



男たちは礼儀正しくお辞儀をして迎え入れてくれる。



俺にとっては、見慣れた光景。



「さ、さすが大志だね」



「はぁ?」



「みんなに尊敬されてて、すごいなぁって」



「そうか?」



今更そんな事を言われても、あまりピンとこない。



俺がこのチームへ入った頃から、ずっとこの調子だったから、特別だという感情が湧いてこない。



俺はステージの近くに福元とアツシの姿を見つけたので、2人に千沙を渡した。



「ここで大人しくしていろよ?」



「わかった」



コクンと頷く千沙の頭を軽くなでて、俺はステージへと上がって行った。



高い場所から全員を見下ろすのは、胸の高揚を覚える。



自分がこいつらのトップなんだと、再確認することができる。



俺がステージ上で咳払いを1つすると、会場のメンバーたちのざわめきはあっという間に静かになった。



「今日の集会は、みんなに紹介したい奴がいる!」



ライブハウスだからマイクも用意されているのだが、俺はあえてそれを使わないようにしている。



自分の声を、みんなに届けたいと思っていたから。



「カナタ!! 上がってこい!!」



メンバーの中でもひときわ目立つ、怪我だらけにカナタに視線を送り、そう言った。



カナタは松葉づえを付きながら、一歩一歩こちらへ近づいてくる。



痛々しい姿だが、俺の家に来た時以上に怪我は増えていないようでホッとする。


どうやら、赤旗はまだカナタの裏切り行為に気が付いていないようだ。



「上がれるか?」



ステージまでの階段で手を貸してやりながら上がってくると、メンバーからざわめきが漏れた。



「みんな、よく聞け!! こいつは赤旗のメンバーの1人だ!!」



俺が大声でそう言うと、ざわめきは更に増した。



問題になっているグループのメンバーが集会に参加しているのだ、不審がっても当然だろう。



俺は、みんなにカナタを助けたときの経緯を、できるだけ丁寧に話てやった。



ただし、千沙の前だからできるだけ柔らかな説明にした。



「どうして、このライブハウスの裏に捨てられていたんだ!?」



メンバーから、そんな鋭い質問が飛んできた。



その疑問も、当然だろう。



自分たちが集会をしていた日、集会をしていたその場所に、捨てられていたんだから。



けれど、千沙の前で赤旗の行為をそこまでバラすわけにはいかなかった。



千沙なら、今度は赤旗が何を狙っているのか、調べはじめるだろうから。



「それは、ただの偶然だ」



俺は、『東にでも捨てておけば……赤旗の鬼畜さをアピールできるって……』という、カナタの言葉は伏せておいた。



千沙が帰った後、改めて伝えるつもりだ。

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