第23話
女の頭がダイニングテーブルの角にぶつかり、ガツンッ!と、大きな音をたてた。
これは、俺にとってラッキーだった。
頭を押さえうずくまっている女の横に落下したナイフを、すかさず取り上げることができたから。
でも、ここはキッチンだ。
危険なものは他にも沢山あった。
だから、俺は女が起き上がる前にその背中に乗りかかり、全体重をかけたんだ。
「ぐっ」
と、苦しそうにうめく女。
女の体の上に乗ったまま、後ろからその首を掴み、床へ押し付けた。
これで、女は身動きがとれないハズだ。
そう思った時、騒ぎをききつけた仲間たちがキッチンへと入ってきた。
その頃、ちょうど帰ってきていた兄貴も一緒だった。
「おい、何してる!?」
仲間の1人が、咄嗟に俺を女からひきはなそうとした。
けれど、それを兄貴が止めた。
「待て、大志は悪くない。どうしてその女がここにいるんだ」
兄貴の言葉に、仲間たちは顔を見合わせて「勇士の彼女だっていうから、連れてきたんだけど」と、説明した。
「こいつは俺の女じゃない。俺に付きまとっているだけの女だ」
兄貴はそう言い、女を押さえつけている俺の手にそっと触れた。
そこでようやく安心できた俺は、全身の力が抜け、そのまま床に倒れこんでしまった。
「まじかよ!? 勇士のことやけに詳しく知ってるから、てっきり本当の彼女だと思って……」
「こいつはそういう嘘を平気でつく女なんだよ」
兄貴は眉間にシワを寄せ、せき込みながら身を起こす女のそばに立った。
「大志、血が出てんじゃねぇか」
「あ、あぁ。これは、さっきその女に……」
「俺の弟に刃物を向けるなんて、いい度胸だな? そんなことしてまで俺と付き合いてぇか」
その時の兄貴は、普段の優しさのかけらも感じられなかった。
兄貴だけじゃない、仲間たちも、そうだった。
「あたしは……勇士君の彼女になりたくて……っ」
さっきまでの冷たさはどこへ消えたのか、女の声はかわいそうになるほど震えていた。
兄貴はそんな女の前髪を掴み、顔をあげさせた。
女が、痛みにうめき声をあげる。
「そんなに彼女になりてぇなら、まず俺のことをしっかり理解してもらわねぇと。なぁ? みんな」
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