第16話

~千沙side~


大志の怒鳴るような声を呆然としながら聞いたあたしは、ホームルームのチャイムがなっている事にも気がつかなかった。



恋羽が「かっこいいっ!」と、飛び跳ねて言ったことで、ハッと我に返ることができた。



な、なに、今の……。



まるで大志が大志じゃないみたいだった。



幼馴染だから、いつも一緒にいるから、大志のいろんな顔を見てきたけれど……。



でも、今の顔は見たことがなかった。



心臓がドクドクとうるさくて、顔が熱くて、胸がギュッと締め付けられる。



まるで、大志に恋をしているみたいに……。



って、そんなことあるハズない!!



ブンブンと首をふって、あたしは自分の考えを打ち消した。



今までずっと一緒にいて、ドキドキしたことなんて一度もない。



今日、たまたまそんなことがあったからって、これが恋だなんて思えない。



きっとあたしの勘違いだ。



「恋羽、授業はじまっちゃうから行くよ!」



あたしは勢いよく恋羽の腕をつかみ、ドアへと向かう。



その時、「千沙!」と、大志に呼び止められて、あたしの心臓は再びドキッとしてしまった。



「ミサンガ、サンキュ!」



そう言って、右手につけたキサンガをこちらへ見せてくる大志。



その姿がいつもの何倍にもかっこよく見えて「べ、別にたいしたことじゃないし!」と、思わず突き放すようなことを言ってしまった。



それでも、大志は笑顔を浮かべたままだったので、少しホッとして教室を出たのだった。


☆☆☆


3年D組へ戻ると、ようやく気持ちが落ち着いてあたしは息を吐き出した。



今日のあたし、なんだか変だ。



ストンッと椅子に座ると、さっきの大志の笑顔がよみがえってくる。



「大志くん、やっぱり千沙のことが好きだって」



「な、なに言ってるのよ、恋羽!」



「だって、さっきの言葉聞いたでしょ? 全力で千沙を守れって。


好きじゃなきゃ言えない言葉だよ?」



そう言われると、せっかく落着いていた気持ちがまた騒ぎだす。



「あ、あれは幼馴染としての言葉よっ!」



恋羽にそう言い、あたしは授業の準備を始める。



「全く、素直じゃないんだから」



恋羽がそう言って、大人っぽく肩をすくめてみせても、あたしはそれを無視したのだった。

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