第2話

再びアツシに音楽鑑賞を邪魔された大志は、不機嫌そうに眉間にシワをよせた。



確かに、ほっておけばいいし、平和なのはいいことだ。



でも……。



あたしは、この静けさがひっかかるところでもあった。



あれだけ、連日のように西区へ乗り込んできていた2つのグループが、ある日突然来なくなったんだから。



まさか、なにかとんでもないことを企んでいるのではないかと、考えてしまう。



「大志、あまり危機感なさそうだけど、大丈夫?」



あたしが口をはさむと、大志は無言のままこちらを見つめた。



そして、「千沙には関係ない」と冷たく言い放ち、視線をそらされてしまった。



大志は、いつでもそうだった。



いくらあたしと幼馴染でも、仲が良くても。



チームの会話になると途端に冷たくなる。



『危険だからあまり首を突っ込むな』



と、いうことかもしれないけれど……。



でも、その冷たさは時折あたしの胸に突き刺さる。



「千沙ちゃん、眉間にシワ」



「あ……」



アツシに言われて、あたしは自分の眉間に触れた。



「大志は千沙ちゃんの事が大切なんだよ。だから巻き込みたくないんだ」



「それは、わかっているけど……」



どうしても、疎外感を覚えてしまう。



「ほら千沙ちゃん、ゲームしよう?」



アツシが、あたしに気を使ってゲームのコントローラーを差し出してきた。



今、ゲームって気分じゃないんだけど……。



アツシの気持ちを裏切るのも悪いかと思いあたしはそれを受け取った。



でも、その時。



ノックの音もなく、バンッ! と音を立てて部屋のドアが開き、あたしたち3人は同時に振り返っていた。



あたしは驚いて、手に持っていたコントローラーを落としてしまった。



「な……んで?」



そして、少し震えた声でつぶやく。



そこにいたのは、ついさっきまで話に出てきていた今津こと、今津強(イマヅ ゴウ)と松原こと、松原力哉(マツハラ リキヤ)だったのだから。



唖然として2人を見つめていると大志が立ちあがった。



大きな男3人を下から見上げていると、すごい威圧感だ。



「おい、まじかよ……」



さっきまで『平和すぎて死ぬ』とか言っていたアツシは、あっという間に青ざめている。



まさか、この場で喧嘩が始ったりしないよね!?



本能的に、部屋のすみへと逃げてしまうあたし。



「ど、どうなるのっ?」



アツシの服の袖をつまんで小声で聞く。



「し、知らねぇよ」



「でもヤバイ状況なんでしょ? なのになんで、アツシまであたしと一緒に逃げてるのよ」



「そんなこと言ったって、仕方ねぇだろ! 東区のトップ2人が相手じゃかなわねぇよ」



「そんな! じゃあ大志が……」



『やられちゃうかもしれないじゃん!』



と、言おうとした時。



「まぁ、座れよ」



と、冷静な大志の声が聞こえてきてあたしは言葉を切った。



「呼び出して悪いな」



その言葉に、あたしは目を丸くする。

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