ウイザード、そして鬼たち
なんとも不思議~不思議を通り越していたのですが、どこかで・・・、どこで見たのか? そう、思い出しました! 古本屋のおじさんから見せられたタロットカードの一枚に、こんな絵があったはずです。でも、どうして思い出したのか・・・、分かりません。
手にした紙に気をとられている男の人でしたが、僕に気づくと『おやっ?』という顔になります。思い当たる節でも・・・、でも人違い? 勘違いだったのか、ポーターかと聞いていました。言われても、僕はさっぱり・・・。しかし英会話の本で~僕だって英会話を勉強? 勉強するつもり・・・、それはともかく持っていましたから、ポーターは荷物運び~なんと僕は荷物運びと思われてしまっているようなので慌てて首をふると、男の人は『そうか』という表情にかわり、再び紙を見ながらキョロキョロしていました。ですが、ぼそっと、
「この汽車に乗らないと・・・、アウトだな。」
またまた独り言を言ったのです。アウト? なにがアウトなのか・・・、僕は尋ねたくなりますが、見も知らぬ人に気安く聞くわけにもいきません。男の人はそれからも辺りをうかがって・・・、僕はそんな男の人をジロジロ・・・。ところが、見たこともない~誰だって見たことなどないはず、違った、どこかで~そう、美術の教科書で見たことのある鬼があらわれていたのです。
江戸時代初期の画家、俵屋宗達の風神・雷神図屏風に描かれていた二人? 二匹? どう言っていいのか分かりませんが、描かれていた鬼が~でもなんで鬼・・・、彼らも異世界に紛れ込んだ? 分からないことだらけなのですが、あらわれたのが停車場! もしかすると汽車に乗るため? ありえないとは思うのですが、悠然とやって来ていました。
鬼は・・・、鬼と言うくらいなので筋骨隆々~痩せていては鬼の名がすたります、そのため腕、太腿と言わず~肩から腕、太股からふくらはぎが筋肉だらけでしたが、なぜかメタボ? お腹がぽっこりと垂れていたのです。君は恐ろしい鬼をどうして見ていられるのか? と疑問に思うかもしれませんが、二人組~白い鬼と緑の鬼は裳(も)という古代のパンツ・・・、裳だけでも珍しいのに、そのうえメタボですから、どうしても目がいくのは当たり前ではないでしょうか!
また鬼は肩に天女の羽衣のような細い布~肩巾(ひれ)を掛けていましたが、顔はなんとブタ! ブタのように突き出た鼻ではありませんでしたが・・・、うーん、どう言えばいいのか? そう獅子舞の頭(かばち)に似てはいますが、頭(かばち)よりは目尻が垂れ、耳はとんがって・・・、そこが大きな違いと言えば違いでした。
そして大きな口~なんでも食べてしまいそうな口と、額のうえのふさふさとした髪は頭(かばち)と同じよう~ただし、髪型はオールバック? オールバックの髪といえば普通、べたっと押さえつけたようになっていますが、鬼の髪は逆立っていて、パンクスそのものです。加えて頭に角が~一人? 一匹? は二本、もう一人? 一匹は一本の角がはえていました。
角だけ見ていれば山羊や一角獣でしたが、持ち物が~一人は連なった小太鼓を大きなフラフープ? に張り巡らせ? 手にはバチのようなものを持っていましたし、もう一人は白くて長い布? の袋~両端をとめていない袋を肩に乗せ、右と左にある袋の口をごっつい手でぎゅっと握っていたのです。この人たち? は本当に俵屋宗達の・・・、風神? 雷神? 僕がそんな事を考えていると、男の人が急いで近寄って来ます。そうして、
「間に合わないかと思って心配したよ・・・。」
すると白鬼が、
「悪い、悪い、ウイザード。悪党が暴れていたから、ちょっと様子見に行っていたんだ。」
言いながら緑鬼にウインクします。男の人は怪訝な顔になると、
「悪党?」
「ああ、暗黒王の手下になった奴らが、懲りもせずに暴れていたのさ。同じ鬼なのに、なんであいつらは暗黒王についたのか? 俺たちには分からんけれどな。」
緑鬼も、
「だが安心しろ、何にもしていないさ。ただ・・・、あいつらの理不尽な行いを少しだけでも防ぎたいと思っただけなんだよ。黙ってみていることなんか、俺たちゃ、できねえ性分だからな。」
続けて白鬼が、
「そうさ。大地がほどよく潤えば~晴天ばかりだと水不足で作物は育たないし、草も木も枯れていく。そうなれば草食動物も昆虫も食べ物を求めて大移動する、結局、負の連鎖だ。そこで俺たちはほどよく潤そうと考えているのだが、奴らときちゃあ、洪水だの土砂崩れだのと、いとも簡単に日常を壊してしまうんだ。」
「ああ、困ったものよ。ささやかな幸せが、そんなに憎いのかよ! だが、どうしてこんなことになったのか? 一緒に魔王様の元にいればよかったものを・・・。まっ、なんだかんだと言っても俺たちとあんたらは違うから、しょうがねえといえばしょうがねえがな。」
黙って聞いていた男の人~ウイザードは、なぜかムッと~何かを言いそうになりますが我慢したのでしょう・・・、ぼそりと、
「暗黒王は口がうまいから、よくよく考えていないと、騙されてしまう。結果、蟻地獄のように這い出せなくなるんだ。暗黒王の配下なんて、そんなもので、言われるままに動かされ災いと不幸をもたらしているだけさ。まあ、それが暗黒王の望むところでもあるんだが・・・。」
そして言葉を切ると、
「私たちだって・・・。」
と言いかけるも、
「魔王様が危惧していたように、我々の仲間にも暗黒王は触手を伸ばしてきている。君たちの仲間はもちろん、若い魔術師や異形のものも・・・、見境なく取り込もうとしているんだ。だから一人でも・・・。」
穏やかな口調とは裏腹にぎゅっと指を握りしめますが、すぐに・・・、
「今日も見習い魔術師が、この列車に乗るはずなんだが・・・。」
半分途方にくれた顔で・・・、すると鬼、二人? 二匹? は興味をそそられたのか、
「ほおぉ、見習い魔術師か! それでどこにいるんだ?」
「それが・・・、さっきから探しているが、見あたらないんだ。」
「なんと! はじめからこんな調子じゃ、後が思いやられるぞ。」
「確かに・・・、困ったものだ。」
再び男の人は思案顔で・・・、つられたように鬼たちも額に手をかざし辺りを見回していました。しかし、停車場には男の人と鬼二人? 二匹? と、僕しかいません。男の人は諦めたように列車を見・・・、僕を見ていましたが、オヤッという顔になると、
「君はポーターだったよね?」
念を押すように聞いてきます。さっきも違うと言ったのに! また聞いてくるのです。僕は半分、煩わしくなりますが、再び違いますというように首を振ってみせました。ところが、
「もしかして、君は・・・。」
それからあれこれ詰問・・・、矢継ぎ早に質問を浴びせだしたのです。僕は見も知らぬ人に・・・、初めて会う人と口など利きたくなかったのですが、しかたなくここにいる経緯をかいつまんで話していました。すると、
「そうか、そうだったのか・・・。この紙に書いてある見習いの子供というのは、君だったのか!」
男の人はうかつだという顔をし、僕の頭の先から足の先まで見回します。鬼たちも僕をジロジロ見ていましたが、なぜかグフグフと含み笑いをすると、
「こんな坊主が? 魔王様も焼きが回ったもんだ。」
と言っていました。『焼き?』、何のことか僕にはさっぱり・・・。でもそれはともかく、僕が見習い魔術師? ありえません。
「ET・T・・・。もしかして、この男の人というのはタロットカードの魔術師じゃないのか?」
「えへへ、分かりますか!」
「君の考えることは・・・。」
いや、分からない・・・。もし分かったら、怖いものがある! なぁーんて考えるも面倒くさいので、膝に置いていたコッペパンをかじりながら再び続きを読むことにした。
TO be continued
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