物語は停車場から

 水晶体を通し脳みそに勝手に入り込んだ文字のため、僕の頭のなかは真っ白! でもしばらくすると、やっと本来の働きが戻ってきますが、へんてこりんな~というより得体の知れない本が、見あたらないのです。見あたらないどころか、僕はなんと原っぱ! にいました。しかし、なんで原っぱ?  

 次から次に・・・、とはいえ僕の力ではどうなるものでもなかったし、なにがどうなったのか~わけが分かりません。しかも原っぱというより草原といったほうがピッタリの場所に立っていて、見渡せば遠くの山~そそり立っているわけではなかったのですが、それなりの高さを見せて外輪山のように囲っていました。でも他にはなにも・・・、人の姿も、家も、畑も、犬や猫もいなかったのです。

 いったいここは・・・、慌てた僕はキョロキョロ、そして背伸びして遠くを眺めていると、土煙が・・・。えっ! 竜巻? でも距離的にはだいぶ~かなり遠く? なので、万が一、竜巻でも、こっちには来ないだろうと見ていると、土ぼこりはもちろん、枝や葉っぱ、草などいろいろなものが巻き上げていましたが、その中に・・・、どう見ても人間? 僕以外、誰もいない~だからそれはないでしょうが、では案山子? ましてや縫いぐるみでも・・・、しかし、なにか光るものが吸い込まれていたのです。

 しかも『助けてくれ!』声のようなものが聞こえた気がしたのですが、なにが吸い込まれたのか知るすべもありません。ところが四角て小さい光るものが・・・、天からふってきていました。拾うとネームプレートで、アルファベットで『ET・T』と刻まれていたのです。『ET・T』いったいなんでしょう? 考え込んでいると、またしても土煙・・・。

 でも今度の土煙は、竜巻ではないみたいです。それではなにが・・・、と思っていると、やって来たのは馬にまたがった侍~なんで侍? それにどこから? ハテなマークが並びますが、どこかで見たことが・・・、あるような~ないような。思い出しました! 古本屋のおじさんが棚から持ってきた本~織田信長の本に載っていた・・・、だとすれば~この人は・・・。それは分かりませんが、鎧、兜をつけていたのです。僕がジロジロ見ていると、侍は馬をとめ~いかに歴史に疎い僕でも分かります、咄嗟に身構え~誰だって身構えてしまうでしょうが、身構えたからといってどうなるものでも・・・。

 なにも知らない僕~一応、教科書では習っているのですが、お侍さんとどう話していいのか分かりませんし、どのような態度を・・・。そうしたことから見ていた僕に侍は腹をたて、問答無用で切り捨てられる! 大いにありそうですし、馬上から足蹴りにされる! あれやこれや~必死で考えを巡らせてしまいますが、僕の期待を裏切って~とんでのない! そんなこと期待するわけがありませんが、チラッと見ただけで走り去っていました。呆気にとられた僕なのですが、これは夢? 古本屋のおじさんの影響で夢を見た? それもありと考え、すぐさま頬をつねると、痛さに思わず声が出てしまいます。

 しかし・・・、動悸がおさまりません。胸を押さえうつむくと~長方形の石? しかも規則正しく敷き詰められていましたが、途端に・・・、閃いた! なぜか停車場という言葉が浮かび上がっていたのです。ですが・・・、停車場? なんて知るわけがなかったのです。

 学校でも教えてもらっていませんし、鉄道の本も読んだことがなかった僕なので、知っているわけがありません。それが・・・、しかも、停車場とプラットホームの違いも分かっていたのです。プラットホームは上に屋根があって雨や日差しが避けられるように・・・、かつホームの左右に列車~それか向かいにもホームがあるような構造で、駅員さんがいたり売店があったりでしたが、停車場には屋根などなく、売店もなければ駅員さんもいなかったのです。

 停車場はさらに、直に地面と~プラットホームのような高さなどなく、あるのは石の厚みだけで、天気~晴れの日はお日様が空にでんと居座り、これでもかと日の光を降りそそぎ、雨の日は容赦なく雨粒を・・・。ぱらぱらならまだしも、本降りになれば最悪で、石がいくら並べてあっても、汽車を待つ間、スカートやズボン、靴がずぶ濡れになってしまいます。

 それは置いておくとしても・・・、いったいここはどこ? 分かりません。戸惑うと共に心はスウスウ~心細さから血の気が失せるといった方が正しいのでしょうが、それに加え突如、あらわれた侍のため、いまだに動揺していました。しかし、何となく原因が・・・。たぶん、あの本・・・、借りてもいないのにカバンの上に置かれていた得体の知れない本! その本をめくったばっかりに、こんなことになってしまっていたのです。

 タイムスリップ! そんなバカな? それとも異世界に迷い込んでしまった? どちらにしても嵐とあの本のせいで、僕は見知らぬところに・・・。そう思ったほうがピッタリきますが、そんなことをのんきに考えている場合ではありませんでした。どうやったら脱出できるのか・・・、そして部屋、いえ、家に戻れる~帰ることができるのか・・・。もしかしてあの本を、もう一度、手にしないと、僕はこのまま抜け出すことができないのでしょうか? そのうえ記憶が・・・、ああでもないこうでもないと頭を巡らせていると、どうしたことでしょう! しだいに・・・、なにもかもが思い出せなくなっていました。

 部活をサボって早めに学校を出たことも、日差しを避けるため商店街を歩き、思いつきで古本屋に立ち寄ったことも、棚に入れたカバンの上にあった気味の悪い本も、嵐のことも・・・、遠い記憶の彼方というのではなく、霧に包まれるようにジワッと消えていっていましたが、理由~それは分からないのです。

 判断力も注意力も曖昧となった僕が、ボーッとして停車場にたっていると、地面が~地震? ゴトゴトゴトと体を突き上げ、ゆらし、空振~耳を打つ音がしていました。しかし・・・、かすんだ空に黒い煙が見えると、轟音と共に蒸気機関車がやって来ていたのです。

『なんだ、汽車か・・・』~この状況で、なんだはないのですが、見ていると一人の男の人が~どこにいたのでしょう・・・。いくら僕が心ここにあらずといっても停車場は一通り~端から端まで見ていたはずなのですが、本当に突然、姿をあらわし、僕、めがけてやって来ます。

『ええっ! なになに・・・、何事?』もうこれ以上ドキッとしたくないので視線が貼りつきますが、男の人は手に何やら~メモ帳? それとも書類? を持つと、顔の前にかかげ、穴のあくほど見詰めながら近づいてきます。このままでは・・・、ぶつかったはずみで僕は突き飛ばされる? そんなことになってはたまらないのでとっさにかまえると、男の人の顔に視線をはわせ、さらには足の先まで・・・、全身を見回していました。

 誰だって同じでしょうが、何か~人や物が、自分に向かってドンドン近づいてくれば、自然によけようとするのは当たり前ではありませんか。それに・・・、もしかしたら次の瞬間~ここは知らない世界なので、どんなことが~『ジャマだ!』といわれ押しのけられたり、突き飛ばされてしまうかもしれなかったのです。いえいえ、もっと~首筋をつかまれ『お前はどこの誰なんだ』と詰問される・・・、いろいろな考えが頭を駆け巡ると、僕は半身になり、すぐにでも逃げだすことができる格好になります。

 ところがいらぬ心配だったようで、男の人はかかげた紙を見ながら考え事でもしているのか、ブツブツとなにやら言いながらやって来ていました。僕はホッとすると少し気持ちに余裕ができたのか、あらためて男の人を見ます。男の人はスラッとしていて背が高く、年上~大人なので当たり前といえば当たり前なのですが、しかも若い~とはいえ若いかどうか? 僕に分かりようはないのですが、白い衣装を着て、腰にはベルト? 僕の知っているベルトではなく、どう見ても蛇でした。白蛇が自分の尻尾をかんで、ベルトのように巻きついていたのです。

 蛇が大嫌いな僕なので、思わず距離を~恐怖心が湧き上がると想像が・・・、何かの拍子に咬まれる! 咬まれなくても触ってしまう! 巻きつかれてしまう! とにかく頭の中で次から次に湧き上がり、慌てて飛び退いていました。『ああ、気色悪い!』考えただけでも・・・、見ればもっと・・・、ハラハラしてしまいますが、男の人は平気の平左の上、白の衣装の上には赤いマントをはおって、手には棒のようなものを持っていたのです。

 しかも・・・、なんということでしょう! 頭の上に~どうやって浮かべたのか? どうすれば浮かぶのか? 数学で習った無限のマークが浮かんでいました。マンガか、絵画に出てくる神様? それはないでしょうが、光り輝く無限のマーク~孫悟空のような金色に輝く輪っかではなかったのですが、浮かんでいたのです。


 おいおい、ET・T! 竜巻はいいとしても、なんでお前が出てくるんだ? 明らかにデベソだぞ~といいたいところなのだが、ここは我慢、我慢で、続きを読んでいた。

                               

TO be continued


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