黒雲と間違えた本
四時をまわっているというのに太陽は容赦なく~これも温暖化? これでもかと言わんばかりに頭上でギラギラと輝いています。そのため僕は、頭の先から足の先までイヤになるほど日差しを浴びながら学校を出るほかなかったのです。
案の定、汗が! 額だけではなく髪のなかからも~つまりは頭全体から汗が盛り上がるというか噴き出すと、滝のようにタラタラと滴り落ちて、耳や~あまりの量に耳のなかまで濡れるし、アゴで大きな粒となっていました。そして首筋をツツツーと流れ落ちるのですが、シャツのなかでも汗が~胸や背中、脇から湧き上がっていました。
さすがに~誰でも同じだと思いますが、家までの道のりを考えるとうんざりしてしまいます。通学路として僕が使っていたのは国道につくられた歩道でしたが、国道と言うくらいですから日差しも風も遮るものがなにもなく~夏は降りそそぐ光と地面からの照り返し、それにエンジンやタイヤの漂う熱で暑いといったらありゃしません。そして冬は冬で、何か恨みでもあるのかというほど北風が吹き抜けますし、車が通れば~途切れることなく走っていたので、北風と車が巻き起こす風で震え上がってしまいます。しかも騒音に排気ガス、加えていつも埃が舞い上がっていたのです。
ではどうして別のルートをと思われるかもしれませんが、通学で一番大切なのは時間~一分、二分で間に合うかどうか・・・、運命が決まってしまいます。そのため変更すると~国道から脇に入りビル群を縫うようにしていく道や、もう少し離れた公会堂の前を通る道は、完全に遠回り~なにもないときはいざ知らず、いざという時、どうにもなりませんでした。じゃあ、その時だけ・・・、と思われるかもしれませんが、いちいちルートを変えるのは誰だって面倒なはずです。それよりもいつも通っている道だったら少々遅く出ても~何分前には必ずつけるなどなど、いろんな意味で安心できたのです。
しかし毎日、暑くて!~夏休みを目前としていたので当たり前と言えば当たり前でしたが・・・、とはいえ朝から晩まで暑いわけではなく、今朝はなぜか空気がひんやりしていて、すがすがしささえ覚えていました。でも喜んでいればたいていどんでん返しが・・・、そうなのです、思った通り、帰りは猛烈な暑さに学校を出た途端、僕はビショビショになっていたのです。
ここで少し、僕が住んでいる街のことを・・・。街には城があって~なかなか城のある街なんてないと思いますが、駅の真ん前にお城がドーンと~当然、城があって駅ができたのに間違いありませんが、それはともかくお城を中心に発展した街でした。
昔はすべての道がお城を目指すか、出発点としていましたから、いくつもある商店街も必然的にお城というか駅に向かっていました。しかし街自体が大きくなると~昔は城から三、四キロも離れると田園風景が・・・、田んぼに畑、住宅地域でしたが、いつの間にか工場にショッピングモール、そして学校に競技場などが、田んぼや畑だったところにつくられていたのです。
また国道も・・・、お城から数百メートルほど離れてところを通っていましたが、街の発展と共に道幅がドンドン拡張~国道をまたいで伸びていた商店街はもともと分断されてはいたのですが、道幅の拡張に伴い~片側一車線が3車線になると、分断というより別の商店街のようになっていましたし、国道に突き当たって終わっていた商店街は、道をまたいであらたに伸びていました。
そうしたことから学校を出てもすぐに国道というわけにはいかず、十分以上、歩かなければならなかったのです。それはしかたないことですが、僕は国道にたどり着いた途端、あまりの暑さに横断歩道を渡ると、商店街~駅やお城に向かうアーケードのある商店街に逃げ込んでいました。
しかし部活をサボって~そのため同級生や先生に会ったらと思うと気持ちが萎縮・・・、世をはばかるではないですが半分、罪をおかした人間のような後ろめたさのかたまりとなって、辺りをうかがいながら帰ります。確かに悪いこと・・・、でもこんな暑さでは、誰だってアーケードと考えるのではないでしょうか。
しかも思ったとおりSpot、on! アーケードはがっしりと日差しを遮り、そのうえ店から漏れ出るエアコンの冷たい風が道に漂っていて、滝のように出ていた汗がピタッと止まると、ベトベトになった体もどことなくサラッとした感じになっていたのです。気分がよくなった僕は部活をサボったことも忘れて、左右にある店を眺めながら歩きます。
すると一台の自動販売機が目にとまり無性にジュースが飲みたくなりますが、お金を持っていない僕は恨めしい目で~販売機はたばこ屋さんが置いていたみたいで、立ち尽くしているだけで買いそうにもない僕を小さな窓から女の人が不審そうに見ていました。
僕は慌てて目をそらすと、たばこ屋さんの横にある和菓子屋さんに視線を移しますが、和菓子屋さんの隣はなぜかケーキ屋さんで、和菓子VS洋菓子の構図になっていました。まあ、お客さんにとっては便利と言えば便利でしょうが・・・。
ケーキ屋さんの隣は電器屋さんでしたが、のぼりを何本も立ててエアコンを店頭に~郊外にある量販店に負けじと飾っていましたが、隣にあるのはなんと仏壇屋さんでした。言いようのない組み合わせなのですが、昔からここで商売しているからでしょう、店の前でたのしそうに話をしています。そうした店を眺めながら歩いて行くと、わざわざ入り口に三角屋根をのせ木枠の窓には茶色というか暗い色のガラスをはめ込んだ喫茶店がありました。
店の前まで行くと、聞いたことのある~学校の授業で聞かされていたショパンの曲が・・・、漏れ聞こえていました。『ふーん、僕が知らないだけで、世の中にはクラッシック好きの人もいるんだな』と思いながら通り過ぎると、隣の洋品店では母さんくらいの人が物静かに店内を巡っていたのです。
それからもいろいろな店を眺めて歩きますが、アーケードの出口付近・・・、もう少しいくと商店街を出て~ということはアーケードもおわりになるのですが、高級そうな腕時計をウインドーに並べた間口の狭いお店がありました。いかにも見ていってくださいというようにしている時計屋さんなのですが、『あれ? どこまで・・・』と思うほど細く長い奥行きのある店で、奥では宝石らしきものを飾ったショーウインドーが置いてあって、何人もの従業員さんが立ち働いていました。
時計屋さんの横には別の路地~路地と言っても狭い道ではなく商店街と同じくらいの道幅ですが、時計屋さんにひっつくようにして日本料理のお店が、隣にはラーメン屋さんがあって、この通りもたくさんの店が軒を連ねています。僕はラーメン屋さんには入ったことがないのですが、日本料理の店には何度か~夜店があるときとか、お祭りがあったとき、父さんや母さんと入った事があります。メニューにどんなものがあるのか知らなかったのですが、いつも天丼を注文してもらっていて、一緒にだされる赤だしがすごく美味しかったのを覚えていたのです。しかし・・・、それは僕の感想でした。
路地を無視してそのまま少し進むと、アーケードの終わるところに古本屋~時々、僕はマンガ本を買いにきていました。消費期限切れと言えばそれまでですが、本屋さんで買うことを思えばすごく安かったので、どうしても読みたいときはここで買っていたのです。
ただし店はすっげー古い~他の店は何年か経つと入り口を改修したり、店内を改装したりしていましたが、この古本屋は変わることなく~昔ながら・・・、まあ、本好きか、僕のように安くなったマンガ本を買いに来るような客しかいないようで、改修も改装も~オーナーは店をつつく気などまったくないみたいでした。
それは店頭に置かれた木枠の平台や店内の木製の棚を見ればすぐ分かるのですが、どれをとっても商売する気があるのか、ないのか、分からないような店でした。ただ僕としては・・・、せめて通路だけでも~本棚と本棚の間が人ひとりしか通れない・・・、何か探し物をしている人がいればその人が動くまで待っていなくてはならなかったので、なんとか広げて欲しいといつも思っていたのです。
しかも店主が年寄り~古本屋を経営する人に若い人なんかいないのでしょうが・・・、テレビや映画どおり前期? 後期? の高齢者の男性の上、ガリガリの体に年季の入った丸いメガネと、メガネの奥から僕みたいな子供が入ると、いかにも迷惑そうというか、胡散臭そうに見ていました。そのようなことからあまり良い印象を僕は~というより悪い印象のほうが強くて、入らずに家を目指してもよかったのですが、気になっていた本~といっても小説や図鑑ではなくマンガ本でしたが、探しに入っていました。
ところがいくら探しても見あたらず、『やっぱりないのか』と思いながら~一応、出ますよとアピールするため店主のほうを見ると、下を向いていた~何かしていたのでしょう、うつむいていた店主がおいでおいでをしていたのです。
エッ、何事? 買うときでさえ笑顔もなければ愛想もなく、本を渡すと裏表紙に貼った値札を見て一言、
「五十円。」
言いながら紙袋に詰め、さも受け取れと言わんばかりの店主なのに、口を利いた? ビックリすると同時に、僕は回れ右して逃げだしたくなってしまいます。ところが、
「おい、坊主・・・。」
と、続けて声をかけてきたのです。『坊主? 坊主・・・、僕はお坊さんじゃないぞ』と思ってしまいますが、しかたなしに、
「僕?」
と自分を指さしながら聞き返すと、
「そうだ、他に誰もいないだろう。」
どこか怒ったように言いました。そのため、
「ええ、まあ・・・。」
不承不承、答えますが、なんと! どうしたのでしょう・・・、ペラペラと、
「お前さんも見ての通り、わしは暇だから人相や手相、それに一人で詰め将棋に碁をやっているが、今日はタロット占いをしておった。そこにお前さんが入ってきたので占ってみたんだが、お前さんにはこれからビックリするようなことが起きるとでているぞ。」
『はぁ?』なにを言っているのか、さっぱり・・・。
「ビックリするような?」
「そうじゃ、お前さんの身に大変なことがおきるとでている。」
二メートルほど離れたところに僕はいたので、そのためか店主はおおきな声で~もしかして少し耳が・・・、怒鳴るように言いますが、またもや、おいでおいでをして~近くに来いということでしょう、しかたなく側まで行くと、台の上にトランプ? なんか違いますがカードが六枚、六角形に並べられていました。
ハートやスペードなどではなくヘンテコリンで気色の悪い絵が描かれたカード・・・、そしてカードの一枚を指さしながら、
「これは悪魔じゃ、恐怖を意味するぞ。」
堂々と悪魔と言われても・・・。僕はわけが分からず見ますが、確かに悪魔らしきものが描かれていました。描かれた悪魔は山羊の顔をした怖そうな男の人で頭には羊のような角が・・・、それに鎖でつながれた人が足下にいます。
「次に、死神じゃ。別れや死を意味している。」
甲冑に身を固めたドクロが、白い馬にまたがっていました。ドクロだから死神? そう言われればそうなのですが・・・。
「その次が、魔術師じゃ。必要なものを創り出す能力を意味しているぞ。」
カードには赤いマントに白い衣装の男の人が、赤いバラと白い百合を足下に片手をあげてなにやら棒のようなものを持っていました。テレビでよく見るマジシャン・・・?
「さらに、戦車。これは勝利を意味している。」
時代はいつの頃? 天蓋のついた車を、白と黒のスフィンクスが引っ張るみたいです。車には鎧を着けた男の人が立っていました。そして、
「これは力を意味する。」
白い衣装を身につけた女の人がライオンの頭を撫でているのですが、頭の上には~宙に浮いた無限のマークがありました。
「最後に、つるされた男。試練をあらわしているぞ。」
『吊された・・・』そんなものがカードに? よく分からないのですが、店主は六つのカードを僕に見せると、
「今日のお前さんは最悪だよ。」
と言うのですが、そう言われてもなにがなにやら・・・。僕は返事のしようがなく困ってしまいますが、頭に浮かんだのは『暇だからおちょくった? 子供だと思ってからかっている?』、いじめられているようで腹が立ってきます。
しかし、またマンガ本を買いに来なくてはならなかったので、ここは我慢で、
「おじさんの言ってることは分からないけれど、気をつけます。」
お愛想で言っていました。僕も世渡り上手? すると店主は喜んだようで、
「坊主、お前なかなか素直じゃないか。」
と言い、何を思ったのか今度は棚から本を引っぱりだしてきて仏像? 僕が知っているのは阿修羅像だけ~いえいえ、他にも何となく知っている仏像はありましたが・・・。さらに信長のことが書いてある本を持ってくると、パラパラッとページをめくっていましたが、
「君は、織田信長を知っているか?」
突然、聞いてきます。でも、もう驚きません。
「ええ、まあ・・・。」
「君も知ってのとおり、織田信長は神も仏も信じない男と言われておるが・・・。」
分からない上に勝手なことを延々と・・・、もう適当に合わすしかありません。それからも戦国武将と仏様や神様の話しを聞かされていましたが、どうしたことか外がにぎやかになっていました。えっと思って覗くと、買い物していた人たちが雨を避けて逃げてきた? アーケードの外は今にも雨が降りそうになっていたのです。慌てた僕は、
「ごめんなさい。雨が降りそうなので、これで帰ります。」
「うん? 雨か・・・。それじゃあ、気をつけて帰れよ。また買いに来な。」
満面に笑み~どこか残念そう、早く帰れと手をふります。
話しかけられたのも、手を振られたのも初めてのことでしたが、そんな事を思い煩うよりも、急いで家を目指さなければ・・・。駅の向こう~ということはお城の向こうですが、彼方の山に見えていた黒い雲がムクムクと~潮干狩りにいったとき遠くで寄せたり引いたりしていた海水が気づいたときには足下まで来ている・・・、そんな風に遠く見えていた黒い雲がドンドンと盛りあがり、しかもものすごい勢いで押し寄せてきていたのです。
これでは家に帰るまでもつかどうか・・・、そう思うと、遠回りになるのですが雨が避けられる地下道に駆け込んでいました。でも家まで地下道が続いているわけではないので駆け上がり、今度は駅前商店街から少し離れたところにある住宅街を猛スピードで駆け抜け、なおかつ近道をすることにしたのです。
家の手前にある空き地を・・・、以前は建設会社の資材置き場として使われていて三方を丈夫なトタンの塀で囲った土地でしたが今は草ボウボウなうえに塀もところどころめくれていて、通ろうと思えば通ることが~しかも最高の近道・・・、でも僕は普段、通ることはなかったのですが、今日は特別でそこを駆け抜けていると人の気配が~誰かが塀のすみに立っているような気がしておもわず見てしまいますが、誰もいなかったのです。
首をひねりながら~何かが喉の奥に引っかかったような・・・、しかしそれより何より押し寄せてくる雲から逃げなくてはなりません。やっと家に着くと頭上を覆った黒雲から三つの武器! まず稲妻がレントゲン写真のように雲のなかで光跡を~原因は雲の中にある氷の小さなかけらが激しくぶつかりあって電気を発生させるのですが、目にみえる形~空気に抵抗されてギザギザした形になって縦横無尽に走ると、最後は大きな木か避雷針におちていました。
二つ目の武器、雷鳴は~光速と音速の違いで稲光から少し間が開きゴロゴロと・・・、まるでティンパニーと大太鼓が組み合わさってとんでもない音~でもどこかゆっくり叩いているみたいな音でしたが、遠くで聞こえたかと思うとあっという間に大気を震わし去って行きます。しかしなかには頭上で鳴り響いた途端、ドーンと屋根をたたき壊すような音で家を揺らしていたのです。恐ろしいこと、このうえありません。
そして三つ目の武器、水蒸気ですが、変幻自在に姿を変えて今は滝~バケツをひっくり返したような・・・、どしゃ降りになっていました。
「雷って、本当に怖いですね。」
『えっ? ニュアンスが怪しい!』、私の記憶が正しければ『さよなら、さよなら、さよなら』の~亡くなられたのは半世紀以上、前だったが、映画解説をしていた淀川長治さんの口癖? だが、どうしてET・Tが・・・。単なる偶然? ああ、ダメだ、ダメだ、私はなぜかマネに捕らわれすぎている、頭を切り替えなくては・・・。そこで、
「ああ、ほんとだ。」
何気なく答えるも、う、ううん? ET・Tのやつ、どこから雷がでてきた?そのうえ、ロボットにヘソなど・・・、なーんておバカなことを。しかし、そんなこと関係ないと言わんばかりにET・Tは困った表情~困っていようが、泣いていようが、ロボットだから表情などあるわけがないのに・・・、
「低気圧が接近すると、体調が崩れるというか頭が痛くて困ります。」
と言っていたのだ。はあぁ、頭が痛い? なんだそりゃ、お前は人間か! まあ、電子機器に雷はよくないとは聞いていたし、帯電すれば・・・。
ところで、帯電で思い出したぞ! 隣に住む鈴木さん~学生さんでありながらお宝収集家の鈴木さんなのだが、蚤の市でまたまた名品を見つけ高額で売却~ヨダレが出まくってしょうがないが、その金で高級車を買っていたのである。
それはこの間のことで、私が買い物に行くためアパートの階段を下りていると~ET・Tは遊び歩いていて『たまには買い物の手伝いでもしろよ』と文句のひとくさりも言いたくなるが・・・、そこでしかたなく買い物に行くため階段を下りていると、アパートの前で男性の声が~men・・・、何人いるのだろう、聞こえていた。
『なんとも、にぎやかな』と思っていると、鈴木さんと二人の男性が立っていて、今まで見たこともない車を前に~アパートで車を持っているのは大家さんしかいなかったが、大家さんの車は大昔の~エンジンでタイヤを回す車で、目の前の車はマンガに出てくるような形状で私は見たことがなかった。ジェット戦闘機というかリニアモーターカーというか、見るからに早そうで格好のいい車を前に三人は声高に上機嫌で話していたのである。
だが私には関係ない~当たり前だ、貧乏な私に車は無縁で・・・、ううっ、涙、涙。買い物の行く手を阻むジャマな三人組をやり過ごそうとするのだが、どういう訳かふさがれて~シャイな性格? の私であるからどうやって通り抜けようかと・・・、『どいてください』とも言えず一瞬、戸惑っていると、気づいた鈴木さんが、
「田村さん、車、買ったんですよ。」
ほくほく顔で声をかけてくる。かけられた以上、半分しかたなしに私は車に目をやり、
「へえー、すごいですね。うらやましい・・・。」
見知らぬ二人に視線を投げながら感嘆とお愛想をまじえながら答えていた。しかし上機嫌の鈴木さんなので、
「分かりますか、けっこう高かったんですよ。」
ストレートに喜びを表現する。そして一緒に立っている男性二人も、そう思っている~本当に? それとも営業なのか分からなかったが、『その通り』という顔で頷いていた。金があるのは、やはり強い! 途端に、ねたましく思ってしまうが、鈴木さんが買おうとしている車は、今、流行の空を飛ぶ車ではなく、それより一段グレードの高い、反重力装置付きの車だった。私も素直に『すごい!』と思うが、所詮、無縁の車だ。
それから何日か経ったある日のこと、またまた買い物に行こうと私がアパートをでると、車で出かけていた鈴木さんが帰ってきた。そして私の顔を見て、
「田村さん、どこか行くのですか? 」
窓を開け聞いてくる。しかも、
「よかったら、僕がお連れしましょうか?」
と言ったのである。『わざわざ、そんな・・・』と私は思うものの、タイヤで走る車には乗ったことがあるが空飛ぶ車や反重力装置の車は乗ったことがなかったので、即座に、
「本当に、いいんですか?」
答えていたのだ。鈴木さんはうれしそうに、
「どうぞ、どうぞ。」
と言いながら、なんとドアまで開けてくれる。私も甘えて・・・、言われるままに乗ると車はプロペラもないのに浮き上がり、タイヤがないのに地面を滑るように・・・。そして走り出すとあっという間にスーパー~歩いて十分ほどなので、着いていた。
お礼を~『ありがとう、助かりました』と言いながら私は降りるのだが、なんということだ? 静電気が! 最新型? 昔の車だってほとんどそういう事はなかったはずだが、雷の超小型版の青白い透明な糸が・・・、透明? 違う、絶対に透明ではない! それはともかくも放電現象が~手と車のボディのどちらから出たのか分からなかったが、飛んでいたのである。
私のせい? もしかして衣服の組み合わせが悪かった? そんなこと分からないが『バシッ!』と大きな音がして・・・、まあ、驚いたのなんの! 火花が飛んだと思うと、あまりの痛さに『往生しまっせ!』。またパクってしまったが、その時のことが記憶に生々しかったので、
「ET・T、静電気でも起きるのか?」
思わず聞くが、ET・Tはあっけらかんと、
「いえ、僕の体には帯電防止装置がついていますから。」
「う、うん? じゃあ、どうして・・・、なんだ?」
表情がないはずのET・Tだが、ニヤリと~私にはそう見えた。
「言ってみただけですよ。」
なななな、なんと、こ、こいつは、私をからかっている! ウンザリすると、それからは口を利く気も起こらず続きを読んでいた。
慌てて僕は家に飛び込みますが、父さんは仕事、母さんは用事があって外出していたので、当然のことながら中は真っ暗。そのため雷だけが明るく~空を切り裂くようなギザギザの光があっちこっちと・・・、とんでもないところで光ったかと思うと、次の瞬間、目を覆うような閃光を部屋に投げ込み、壊れる? 切れる? 前のネオンサインのように一瞬、カッというように明るくしますが、すぐに真っ暗になっていたのです。
僕は光った瞬間、急いで~自分の家なので勝手は分かっていたのですが・・・、それでも駆け寄りスイッチを入れていました。でも雷~心配しすぎなのは分かっていましたが、スイッチを入れたことで雷がおちはしないかと思ってしまいますが、それよりも母さんのほうが・・・。
でも母さんのことだから、どこかに入ってやり過ごすか、まだ用事をしているかもしれません。ただ・・・、傘を持っているのかどうか分からなかったので迎えに思いますが、どこにいったのか・・・、いつ帰ってくるのか知りませんから、ただただ待つことしかできなかったのです。
そのため~母さんが帰ってくるか、連絡があるまで、図書室で借りた~クラブをサボった原因でしたが、昼休憩に借りた本を読むことにします。カバンを机の上に置くと本を取り出しますが・・・、『あれ?』知らない本が入っていたのです。『おかしいな・・・、ちゃんとボックスには入れていたのに?』、僕が読もうと思ったのは宇宙人三兄弟が巻き起こす笑いあり涙ありの冒険小説でしたが、これは・・・。
表紙は真っ黒・・・、いえ地味でちょっと見には分からないのですが、赤を帯びた黒~どう言えばよいのでしょう、それはともかく小汚く、しかも意味の分からない~不思議なというより得体の知れない模様が描かれていて、しかも題名も読めません。逃げるように帰ったため、間違えた? 僕の不注意といえばそれまででしたが、なにがどうなったのか~どこでどうなったのか、いくら考えても分からないのです。
しかしあれこれ考えてもどうしようもないので首をひねりながら開くと、表紙は分厚いのですが、ページが? 青い色と赤い色の二枚のページしかなく、そのうえ本とは思えない紙が使われていました。それに・・・、文字がない? 何も書かれていないのです。『なんだこりゃあ? 本じゃないぞ!』ためつすがめつページをじっと見ていると、なんと透かしも入っていました。
お札のような・・・、でもなんのための透かしなのでしょうか? それはページいっぱいと言っていいほど大きな透かしで、しかも見る角度によって出てくるものが違う?~仏様や神様の像が・・・、ほとんどは仏像でしたが気まぐれのように見えたかと思えば消えていたのです。
僕は気色悪さに放り出したくなりますが、突然、白い文字が~どこから出てきた・・・、浮き上がってきた? とにかくスパイ手帳やあぶり出しのようにあらわれていました。なにもしていないのに~水に濡らしたわけでも、火であぶったわけでもないので、自動印刷? でも、どうやって? 信じられないことですが、文字が次から次にページに書き込まれ? いつの間にかページいっぱいに埋め尽くされていました。怖くなり閉じようとしますが、目が・・・、視線がページに貼りついて、しかも吸い寄せられるように文字を~僕が読むのではなくて、文字が勝手に頭に入り込んでいたのです。
TO be continued
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