第9話「卒業式」
お父さんが頑張ってくれたお陰で、引っ越しは春に伸びたの。
でも3学期になったら、クラスや部活のみんなには引っ越しを言わなくちゃね。
まず担任の先生に言ったら、驚いてたけど、色々手続き必要だからって、書類を一式、お母さんに渡してと渡されたの。
そして部活では、こっそり石田部長に春休み中に引っ越すことになったって伝えたの。
そしたら意外にも残念だね…って言ってくれて、ビックリしちゃった。
クラスも部活も、正式にみんなに言うのは3学期の終業式の日ってことになって、それまでは普通に学校に通って、部活にも出ることにしたんだけど…。
上井先輩の3年生は高校受験に向けて大変そうで、学校ではなかなか会えないけど、思い切ってバレンタインデーに、アタシの思いを込めたチョコレートを手渡ししようと思って、頑張ってチョコを手作りしたんだ。
だけど2月14日に中学校に来たら、3年生は私立高校受験で一斉休みなんだって!
知ってたら昨日の内にチョコ持ってきたのに~。
「じゃあ朋ちゃん、上井先輩は近所なんでしょ?お家に持って行けば?」
と、梅ちゃんがアドバイスしてくれたけど…。
それはちょっと恥ずかしいかな(/ω\)
神戸先輩っていう彼女がいるのを知ってるのに、上井先輩のお家へチョコを持ってくのは、なんか違う気がするの。
「うーん、微妙な乙女心ってやつ?本命の相手なんだけど、相手の立場を考えると…とか?」
そうなの、そうなの!
学校の中で、あっ上井先輩!って会って渡せたらいいけど、お家まで行くなんて、重たい女になっちゃう。
かと言って明日以降にチョコを渡すのも、売れ残りを上げるみたいな感じになっちゃうから、残念だけど諦める。チョコは今夜アタシの残念会として、上井先輩のことを思いながら食べちゃう。
バレンタインで失敗しちゃったから、アタシに残された最後の手段は、上井先輩の卒業式!
第2ボタン…は、きっと神戸先輩に上げるだろうから、他のどの部分でもいいから、上井先輩の制服に付いてたボタンがほしいな💕
吹奏楽部では、卒業式のための曲を練習を始めたよ。
竹吉先生は3年生の担任で指揮が出来ないから、石田部長が代わりに指揮するんだって。
毎日張り切って練習してるよ~。
アタシは、上井先輩への思いを込めて、ホルンを吹くんだ。
頑張っちゃうから!
@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@
そしていよいよ今日は卒業式。
演奏しながら先輩たちが入場してくるのを見たら、やっぱり泣いちゃった(つд⊂)
今日で本当にお別れなんだもん…。
卒業式は無事に終わって、その後は1年生から3年生まで、そして先生も入り乱れて、大サヨナラパーティーみたいになっちゃってた!
楽器を音楽室に仕舞ってから駆け付けたら、誰が何処にいるのやら、全然分かんないのs(・・;)
困ったなぁ、上井先輩にボタンもらいに行きたいのに、上井先輩、どこにいるんだろ。
と思ったら、神戸先輩が、アタシが全然知らないちょっと怖そうな男の人と仲良さそうに腕組んで写真撮ってた。そしてそのまま、その人の第2ボタンもらってた。
えっ?なんで?
上井先輩は?
思わず周りをキョロキョロと見渡したら、上井先輩を見付けたよ♪
同じクラスのお友達と座って話してた。
でもなんか元気がなさそう…。
寂しいのかな?
ひょっとしたら、もしかして、もしかして?
「ほら朋ちゃん、ラストチャンスだよ、行っておいで!」
梅ちゃんがアタシの背中を押してくれた。アタシは自分でも分かるぐらいに顔を真っ赤にして、上井先輩の前に行ったの。
「せっ、先輩!上井先輩っ!」
「あっ、福本さん。どうしたの?」
「先輩の制服のボタン、下さい!」
アタシのその声を契機に、先輩の友達がオーッとか、ヒューヒューとか言って囃し立ててたけど、アタシは上井先輩しか見てないの。
「えーっ、俺なんかのボタンでいいの?」
うん、アタシは上井先輩のボタンじゃないとダメ。どのボタンでもいいから、下さい!
そう思いながら、ウンウンと頷いたの、
「じゃあちょっと待ってね、せっかくだから第2ボタンを上げるね。えーっと、ボタンは裏から外して、と…どうやればいいのかな…」
えっ、アタシ、上井先輩の第2ボタンがもらえるの?
やったー\(^o^)/
でも第2ボタンは、神戸先輩のものじゃないのかな?いいのかな?
「はい、第2ボタン。大切に持っててくれたら嬉しいな」
上井先輩は照れながら、大事な第2ボタンをアタシにくれたよ。
「先輩、ありがとうございます!大切にします!」
第2ボタンを持ってみんなの所に戻ったら、みんなが凄いじゃん!第2ボタンってどんなの?って、キャーキャー言ってくれて、なんとなく気分が舞い上がっちゃった(n*´ω`*n)
とても嬉しかったから、その日の夜、アタシ、先輩に感謝と、神戸先輩とどうなったのかの疑問と、好きでしたって告白の手紙を書いて、こっそりと先輩の社宅の郵便受けに入れておいたの。そしてその手紙で、豊橋に引っ越すことも先輩に明かしたの。
そしたらね、次の日にすぐ先輩からお返事が来たんだよ。公立高校の受験が迫ってるのに。
≪福本さん、お手紙ありがとう。第2ボタンを喜んでくれて、とても嬉しいです。福本さんの疑問だけど、僕は1月下旬に失恋しました。だから2月からは独身だよ(笑)。福本さんに告白してもらえて、とても嬉しかったよ。もっと早く福本さんの気持ちに気付いて上げれてたら、自分も福本さんも、もう少し楽しいバレンタイン、卒業式になったかな、なんてね。その頃は(いや、今も?笑)心の中がズタズタだったから…。
でももうすぐ豊橋に行っちゃうんだね、驚いたよ。福本さんが豊橋にさえ行かず、引っ越しが無かったら、喜んで福本さんの告白を受けて、お付き合い出来るのにね。でも自分みたいな男のことを、とても大切に思ってくれていて、感謝です。本当にありがとう。豊橋に行っても、元気でね。ホルンも続けてね!いつかまた会える日が来るのを楽しみにしてます。じゃあね!≫
先輩からの手紙、あっという間にアタシの涙でグシャグシャになっちゃった(ノ_<。)
先輩、神戸先輩と別れてたんだ…。
だから卒業式の後、寂しそうにお友達と話してたんだ…。
この手紙は、アタシの一生の宝物にするんだ。
アタシはこの先、豊橋に引っ越して、上井先輩以外の人を好きになって、いつかは結婚するかもしれない。
だけど、初恋相手が上井先輩で本当によかった!
絶対に先輩のことは、忘れたりしない!
こんなに優しくて、人を思いやることの出来るような素敵な男の人、この先のアタシの人生で現れるかな。
上井先輩と出会えて、心から幸せでした。さようなら、上井先輩。
【完結】
※参考リンク先
https://kakuyomu.jp/my/works/16816700426570626925/episodes/16816700426696370487
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全9回の短編スピンオフでしたが、ご覧いただきありがとうございましたm(__)m
現在連載中の「青春の傷痕」にもリンクする部分がある小説として、ストックしていたものです。
また明日から、「青春の傷痕」を再開したいと思いますので、良ければまたご覧下さい。
今後ともよろしくお願いいたします!
憧れの初恋相手は、隣の社宅のセンパイ イノウエ マサズミ @mieharu1970
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