第8話「先輩の引退」
でも上井先輩と喋ったりできるチャンスは、なかなか有りそうで無いんだよね~。
いつも男子軍団で固まってるしぃ(- -;)
次のイベントチャンスは、「吹奏楽まつり」っていう大会。
これもコンクールみたいな賞レースらしいんだけど、人数制限がないから、アタシも出れるの♪
しかも優秀校は、ラジオで演奏が流れるんだって!
アタシも頑張ろうっと。
その「吹奏楽まつり」は出番が早いから、朝6時に中学校からバスで移動するんだって。
上井先輩、また神戸先輩と並んで座るのかな…。
って思いながら当日の朝、バスに乗り込んだら、完全に2人は別行動。
バスの座席の位置も男子軍団は後ろで固まって遊んでるし、神戸先輩は前の方の女子で固まってるし、もちろん途中の休憩でも喋ったりもしないの。
…もしかしたら別れたのかな?
こういう情報に強い先輩に、後で聞いてみようっと。
ただ会場には、逆に朝早く出発したら道路が空いてて、予定より20分も早く到着しちゃったから、会場の中に入れなくって、吹奏楽部のみんなで、近くの公園でかくれんぼとか鬼ごっこして遊んだんだ。
めっちゃ楽しかったよ~♪
上井先輩も思い出作りのためか、カメラを持ってきてたから、先輩が撮ろうとした瞬間に、アタシはその写真に写るように走りこんでたの。
梅ちゃんが笑ってたよ、上井先輩のカメラを意識しすぎ!って(^▽^)
だけど肝心の本番は、朝早かったせいか、練習では出来てたのに本番では出来ないことがあったりして、ちょっとイマイチだったかなぁ。
さらにこの日は、上井先輩とお話しするチャンスが無かったんだ…(´・ω・`)
なんでかっていうと、大会が全部終わるのが夜9時なんだって!
それまで部の全員が残るわけにはいかないから、部長の上井先輩と副部長の船木先輩、来年の部長候補の石崎先輩と副部長候補の後藤先輩、そして顧問の竹吉先生の5人だけ、最後まで残るんだって。
上井先輩は、アタシ達とは別行動になるってこと。あ、神戸先輩ともだけど。
それで、アタシ達が乗ったバスを上井先輩が見送ってくれた時、また明日学校で会えるのに、何故かもう二度と会えなくなるような気がして、一瞬ウルウルってしちゃったの。
涙を拭ってたら、バスで横に座ってた梅ちゃんが心配して、声をかけてくれたんだ。
「朋ちゃん、どうしたの?何かあったの?演奏でミスったとか…。話なら何でも聞くよ」
「梅ちゃんありがとう。実はね、アタシ…引っ越すことになったの」
「えーっ?」
梅ちゃんはびっくりしてか、突然大きな声出すから、周りの友達や先輩もアタシたちの方をなんだ、なんだ、って見ちゃったよ💦
「梅ちゃん、声が大きいよぉ」
「ごめんごめん、ビックリしたから…。でも急じゃん?どこに引っ越すの?」
「豊橋。愛知県だって」
「本当?凄い遠くなっちゃうね…。寂しいな、アタシも」
「うん。寂しい。それと寂しいのはもう一つ…。梅ちゃんならもう分かってると思うけど…」
「上井先輩でしょ?」
「やっぱりバレてたかぁ」
「もうバレバレだよ、1年生の中では。だから上井先輩が神戸先輩と付き合ってるって分かった時、1年生はみんな朋ちゃんの心配をしたんだから」
「そんな前からみんな気付いてたの?そっか…ありがと。でもね、アタシ、上井先輩のことが好きだから、神戸先輩と付き合ってても、ずっと上井先輩を好きなままでいようって決めたの」
「そうなんだ…。でもさ、引っ越したら朋ちゃんのその夢も叶わなくなっちゃわない?」
「そこなんだよね。だからアタシ、引っ越すまでに、上井先輩の印象に残るような女の子になりたいの」
「でも今度の週末の文化祭で、先輩たち、引退しちゃうよ?」
「だよね。時間がないよね💦」
「まあ朋ちゃんは、上井先輩と近所だから、色々な面で強行突破もできなくはないけどさ、色々な面で…ウフッ」
「何よそれ。アタシ、そんなHなことしないよ!ちゃんとした女の子として、上井先輩の記憶に残りたいんだから」
梅ちゃんって、本当にラフになんでも話が出来るいいお友達。
引っ越すと、梅ちゃんともお別れなんだよね…。
次の日、結局先生や先輩が夜9時まで残った「吹奏楽まつり」は、アタシの中学校は何の賞ももらえなかった、って朝練で竹吉先生から聞いたの。
先生もだけど、上井先輩と船木先輩は明らかに疲れた顔して朝練に出てたよ。
部長を務めるって、ホント大変なんだなぁ。
アタシに残されたチャンスは、文化祭だけになっちゃったけど、文化祭で上井先輩に強烈な印象を残したいな。ホルンに福本っていう女の子がいたってことを…。
ウチの中学校の文化祭は、1年生と2年生は各クラスがクラス展示をやって、3年生は劇をやるの。
吹奏楽部は、もちろんステージが用意されてて、竹吉先生は文化祭用に6曲セレクトしたんだよ。
その吹奏楽部は初日に演奏があるの。
全生徒の前で演奏するから、緊張する~(*ノωノ)
でも文化祭のステージは、3年生の引退ステージ!
上井先輩のために、一生懸命練習したから、舞台の端から端で遠いけど、上井先輩にこの思い、届いて!って気持ちで演奏するよ。
竹吉先生が挨拶して、みんなが拍手してくれて、吹奏楽部の時間が始まったの。
でもあっという間に全6曲の内、5曲終わって、最後の曲になったんだけど、ふと上井先輩の方を見たら、もう上井先輩は涙を堪えた顔になってた。
その姿を見たら、アタシもウルウルッときちゃった。
上井先輩も引退ステージだけど、アタシもこの中学校で最初で最後の文化祭ステージになるから…。
6曲目、最後の曲が終わって、先生とみんなで一礼してから、撤収するんだ。
でも上井先輩の姿が見えない…。
体育祭の時とか、先月のイベントの時もだけどこんな時、率先して指示出してくれるのに。
どこ行ったのかな?
しばらくしたら、目を真っ赤にして、ハンカチで顔を拭きながら、上井先輩が戻ってきた。良かった~。
多分、これで最後だって思いが強くて、泣いちゃった顔をアタシ達に見せたくなかったんだろうね。
でもトランペットの2年の後藤先輩は、
「泣いとったじゃろー、先輩!」
って、上井先輩の背中を軽く叩いてたよ。
信頼関係があるんだね、羨ましいな…。
文化祭は木曜と金曜の2日間行われて、土曜日は各クラス反省会。
そして土曜日の午後から吹奏楽部は、3年生の引退式と、部長交代式をやるんだって。
アタシはクラスより、部活優先だったよ。クラスの反省っていっても、1年生だから大したことしてないしね。
そして午後からは、上井先輩が仕切る、最後の部活!
「皆さん、文化祭での演奏、お疲れさまでした。まつりが月曜日にあって、いい賞がもらえたらみんなも元気が出たと思うんじゃけど、こればっかりは仕方ないね。来年に託すから、来年の部長と副部長は、コンクールで金賞、まつりで何かの賞、この2つを狙って頑張って下さい。では、来年度の部長と副部長を発表します」
上井先輩は去年、前の部長さんからこんな感じで部長に突然選ばれたんだね。
2年生の先輩が言ってたけど、物凄い驚いてたんだって。だから突然指名されるんだろうなぁ。でも、誰を指名するかは、先生と部長、副部長で話し合って、事前に決まってるんだって。この前の吹奏楽まつりの時に、もうバレてるような気もするけど…。
なんだか音楽室がザワザワしてるけど、上井先輩は発表したよ!
「来年度の部長は、チューバの石田君、副部長はトランペットの後藤さんに決まりました!」
音楽室は拍手に包まれたよ。先輩たちの声を聴いてたら、やっぱりね、とか、あの2人なら大丈夫だろとか、言ってる。
でもアタシは、その2人の先輩とは縁がないまま、サヨナラになっちゃうのかな…。
慣例で、次の部長に音楽室のカギを引き渡す儀式があるんだって。
上井先輩から石田先輩に音楽室のカギが渡されたけど、上井先輩はすごい寂しそうな表情してるのが印象的だった。
きっとまだ、吹奏楽に未練があるんだろうなぁ。
吹奏楽を続けたいんだろうなぁ。
高校でもきっと吹奏楽部に入るんだろうなぁ、上井先輩は。
もしアタシが引っ越さなくていいんなら、先輩と同じ高校に通いたい!
最後に竹吉先生が、上井先輩を称えてた。未経験の途中入部で、よくここまで吹奏楽部を引っ張ってくれた、ありがとうって。
そして3年生に拍手が送られて、1年と2年は、アーチを作るの。
そのアーチを抜けて音楽室から出たら、正式引退なんだって。
アタシは梅ちゃんとアーチを組んで、出来るだけ最後の方に並んだの。
だって最初の方だと、あっという間に先輩が通り過ぎちゃうもん。
出来たら、上井先輩と一言でもいいからお話ししたいもん。
先輩方が、どんどんアーチを潜り抜けて、音楽室から出ていくよ。
BGMは竹吉先生が引く、ピアノの「蛍の光」。
普段クールな先輩まで泣いちゃってる。
一通り3年の先輩方はアーチを抜けたんだけど、神戸先輩は音楽室の外でずっと誰かを待ってるみたい。
…やっぱり上井先輩を待ってるの?
その上井先輩は人気があって、後輩の全女子から握手を求められてるみたい💦
先輩は1人1人の目を見て、個別にアドバイスとかしてるから、感激して泣いてる女子もいるよ。
もしかしたらアタシのライバルは、他にも沢山いたのかな?
特にフルートの2年生の横田先輩は、いつまでも握手した手を離さずに泣いてた。
横田先輩って可愛い系だから、2年の男子の先輩が狙ってるって聞いたことがあるけど、やっぱり上井先輩のファンだったのかな。
って見てたら、少しずつ上井先輩がアタシの近くへと進んできたよ…。
アタシ、先輩と握手したいから、梅ちゃんにゴメンネって言ってアーチを崩して、待ってたの。
そしたら、同じサックスだったからか、上井先輩は先に梅ちゃんに声をかけてた。
「梅ちゃん、半年間ありがとうね。1年生だけど冷静な梅ちゃんのお陰で、サックスのパート練習も脱線しすぎなくて助かったよ。来年は新1年生を沢山サックスに入れて、頑張ってね」
「せ、先輩…。ありがとうございます!頑張ります!」
それまで何ともなかった梅ちゃんが、みるみる内に泣き出しちゃって、上井先輩と握手してた。やっぱり同じパートだから、心のどこかで上井先輩を慕ってたんじゃないかなぁ。
と眺めてたら、次にアタシを見てくれたの!急に心臓のドキドキが速くなっちゃったよ!
「福本さん!ホルン、よく頑張ったね。半年であんなに上達するなんて、なかなかのもんだよ。来年は1年生を教える側になるけど、今のまま頑張るんだよ!」
「はい!」
アタシが引っ越すことを知らないから、上井先輩はこのままこの中学校でアタシが2年生になると思ってる。
そう考えると、涙が溢れてきた。
「あと福本さん!」
「はい、えっ?」
「帰り道で、俺の後ろを歩いてたこと、何度かあったよね。遠慮しないで、エイッて体当たりでもして来れば良かったのに」
上井先輩はそう言って、アタシの頭をポンポンと叩いた(>_<)\(・・ )
アタシはもうダメ。ワーンと声をあげて泣いちゃった。
なんでこんな優しい先輩とお別れしなくちゃいけないの…悲しいよぉ。
「ゴメンゴメン、泣かすつもりはなかったんだけど。むしろ笑ってほしいところだったんだけど。とにかく、福本さんのトレードマーク、前向き元気印で、来年も頑張ってね!」
アタシは声にならない声で、ハイ、と答えた。
最後に上井先輩が音楽室から出る時、女子のみんながまた入口に殺到して、せんぱーい!ありがとうございました!さよーならー!って言ってるのを、涙を拭いながら、ちょっと離れた所で見てた。
上井先輩、モテモテじゃん。アタシなんかよりも可愛い子や、素敵な2年の先輩もいるじゃん。元々アタシの片思いは叶わない運命だったんだわ…。
竹吉先生が冗談ぽく、
「分かった分かった、みんなのその愛情を、今度の部長にも向けてやってくれや」
と言って、みんなを席に座らせたの。
上井先輩は音楽室を出て、どうしたかな?と思ったら、神戸先輩と楽しそうに喋りながら歩いてる。
別れてなんか無いじゃん。
あーあ、アタシの初恋も終わりかぁ。
「朋ちゃん、上井先輩に思いは伝えられた?」
梅ちゃんが聞いてきた。
「えー、梅ちゃんだって上井先輩のこと、好きだったんじゃないの?」
「えっ?そりゃあ、毎日近くで熱心に練習を教えてくれるから、そりゃあ、そりゃあ…ねぇ」
「やっぱりー」
「でもきっと、1年の女子はみんな上井先輩のことが、好きだと思うよ。朋ちゃんみたく、初恋レベルまで好きかどうかは分かんないけど。だってさっきだってさ、途中からしか聞こえなかったけど、1年生と2年生の1人1人に、それぞれ違う言葉をかけてたし。ちゃんとみんなのことを把握してなきゃ、そんなこと出来ないよね。凄い先輩だわ、上井先輩は…」
「そうなんだ。じゃあアタシが転校したら、他の女の子が上井先輩に告白したりするのかな、付き合っちゃうのかな…」
「おーっと、その前に神戸先輩っていう彼女がいることをお忘れなく、朋ちゃん。神戸先輩という彼女がいるから、みんな誰も告白しようなんてしてないだけだよ」
「あっそうか~、そうだった。アタシ、上井先輩と神戸先輩、別れたと思ってたの」
「え、なんで?」
「だって、部活で全然話さないじゃん?カップルなら、少しぐらいイチャイチャしてよって、逆に思ったこともあるくらいなのよ」
「そこは…やっぱり3年生として、そして上井先輩なら部長として、部活内では一線を引いてたんじゃないの?分かんないけど」
と、梅ちゃんとずっと会話してたら、いつの間にか部活が終わってて、石田新部長が
「鍵かけるぞー」
って言ってきたから、帰りまーすって、慌てて外へ出たの。
石田先輩は上井先輩と違って厳しそうだから、ちょっと部活も怖くなるかも。
<次回へ続く>
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