第5話「ショック!」

 1学期が終わって、夏休みに入ったんだけど、アタシ、凄いショックなことがあったの。


 もう吹奏楽部やめちゃおうかなって思ったほどなんだ…。


 アタシの初恋の相手、上井先輩に、吹奏楽部内で彼女が出来たって噂を聞いたんだけど、全然部活ではそんな素振りなかったし、噂でしょ?って流してたんだけど…。


 昨日、上井先輩が、クラリネットの神戸先輩と2人で仲良さそうに一緒に部活から帰るのを見ちゃったの…(>_⊂)


 2人の姿はもうラブラブで、手とかは繋いで無かったけど、どう見てもカップル。


 アタシ、失恋しちゃった…💔


「ただいまぁ…」


「朋ちゃん、おかえり。どうしたの、そんな落ち込んで」


「お母さん、アタシ、失恋しちゃったよぉ」


 お母さんの声を聴いたら、つい涙があふれてきちゃった。


「よしよし、朋ちゃん。聞いてあげるよ。上井くんにフラれちゃったの?」


 ううん、とアタシは首を横に振った。


「え?告白してフラレたんじゃないの?」


「告白なんか、まだ出来ないよ。その前に、上井先輩に彼女が出来ちゃったの。今日の帰りにね、この目で見たの。噂は聞いてたんだけどね、信じたくなかったの。夢じゃないかなって思って、頬をつねったけど、夢じゃなかったよぉ、お母さん…」


 アタシ、お母さんの前でこんなに泣いたの、いつ以来かなぁ。


「そっかー。…あのね、お母さんもね、朋ちゃんくらいの年頃に、何回も失恋したのよ」


「えっ?お母さんも?失恋?」


「そう。でもこうやって元気に生きてるでしょ?お母さんは初めて失恋した時、好きだった男の子を見返してやる!って思って、勉強とか頑張ったの。でもね、最初に心から好きになった男の子のことなんて、そう簡単に忘れられるものじゃないんだよね。特に朋ちゃんは、隣の棟に住んでる上井くんが初恋のお相手なんだもの。無理に忘れなくってもいいのよ」


「でも、上井先輩とはもう付き合えないんだよ」


「そんなの、分かんないわよ」


「えっ?」


 お母さんがビックリするようなことを言うの。


「朋ちゃんが上井くんのことをずっと好きでいたら、いつかチャンスが来るかもしれない、ってこと」


「でも、でも…」


「お母さんはね、最初に失恋した男の子のことがどうしても忘れられなくて、結局フラれた後もね、何回もアタックしたの。そしたらね、6回目のアタックで、遂にお母さんのことを好きって言ってくれたんだよ」


「えーっ、お母さん、凄い!6回も同じ男の人に告白し続けたの?」


「そうよ。それだけ、お母さんにはこの人しかいない!って思ってね」


「お母さんも若かった時、頑張ったんだね!結局その男の人とは、どうなったの?」


「どうも何も、あなたのお父さんがその男の人なのよ」


「うわっ、そうなんだ!?」


 アタシ、お父さんとお母さんの出会い、馴れ初めを一気に聞いちゃった。


 お母さんの恋、凄い一途だったんだ…。

 だからウチのお父さんとお母さんは、今でも仲良しなんだね。


「だから朋ちゃん、上井くんのことを簡単に諦めたりせずに、思い続けなさい。第一、お母さんと違って、直接フラれた訳じゃないんでしょ?偶々、朋ちゃんより先に、上井くんの彼女になった女の子がいただけでしょ?」


「う…ん。出来たらね、夏休みの終わりにある吹奏楽コンクールの時に、上井先輩に告白しようと思ってたの」


「上井くんのこと、嫌いになった?」


「ううん…。好きって気持ちは変わんない」


「そうよね?じゃあ、上井くんのことが好き、だけど、ちょっと今は休憩、そんな感じで過ごしなさい。いつか朋ちゃんにもチャンスが来るわよ、きっと」


「チャンス?来るかなぁ…」


「大丈夫!この前毎日ホルン頑張ってるねって、上井くんが褒めてくれたって、物凄いいい顔して教えてくれたじゃない。諦めないことよ。上井くんに彼女がいても出来ることなんて沢山あるんだから」


「えー、嘘っ。何も出来ないよ」


「何言ってるの。毎日の挨拶があるでしょ。廊下ですれ違ったりしない?それと、パートが違うから難しいかもしれないけど、曲について聞いてみるとか、上井くんの前でワザとでもいいから派手に転んでみるとか」


「お母さん、そこまでいくと頭がオカシイ後輩になっちゃうよ!」


 でもアタシのことを気遣って、全力で慰めてくれたお母さん。ありがとう。

 少し元気が出てきたよ。


 うん、上井先輩は大事な先輩。

 アタシが吹奏楽部を辞めたら、二度と喋れなくなっちゃう。

 だから彼女がいても、このままアタシの初恋相手でいて下さい。


 好きでいさせて、上井先輩💖


 <次回へ続く>

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