空っぽ

尾八原ジュージ

空っぽ

 お盆になると仏壇の中身を全部出して、テーブルとかに祭壇作って飾るじゃないですか。で、空っぽになった仏壇はお盆の間、ずっと扉を閉じておく。

 他の地域じゃ違うかもしれないけど、少なくとも僕の実家の辺りはそうでした。

 でね、空っぽのはずの仏壇の中で、何かが落ちることがあるんですよ。

 一日に何度もの日もあれば、全然音がしない日もあったんですけど、扉を閉めた仏壇の中で、ゴロッ、ドスッて音がするんです。

 気になってしょうがないんだけど、お盆の間に仏壇を開けようとすると、両親も祖母もめちゃくちゃ怒るんですよ。理由は説明してくれないくせにね。


 僕が八歳のとき、お盆に夏風邪を引いてね。みんなお墓参りに行っちゃったんだけど、僕だけ家で留守番してたんです。

 熱はあったけどそんなに辛くはなかったから、とにかく暇でね。

 で、誰もいないこの隙に、仏壇の中で何が音を立ててるのか見てやろうと思ったんです。

 そうと決めたら早いほうがいい。さっそく仏壇のとこに行って、パッと開けたんです。

 でも何にもない。空っぽなんです。

 なんだ、やっぱり何にもないじゃないかってがっかりしながら、扉を閉じて背中を向けたときですよ。

 後ろでゴロッていう音がした。

 慌てて振り返って、もう一度仏壇の扉に手をかけました。だって、ゴロッの瞬間に開けたら、ドスッて落ちるとこが見られるはずでしょ。今度は何かわかるかもって。そしたら、

「こらっ!!!」

 ってものすごい声がしたんです。

 誰もいないはずの僕のすぐ背後から。それが何年か前に亡くなった祖父の、僕のいたずらを叱るときの声にそっくりでね。

 あっ、開けたらいけないものなんだ。そう思ったら怖くなって、急いで扉から手を離しました。

 そしたら、仏壇の中から案の定ドスッと音がして、

『アケテェ』

 って、中から蚊の鳴くような声がしたんです。


 いやぁ、開けてないですよ。

 開けなくてよかったんですよね。

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