第3話


 2度目ましておはようございます。なんてクソ呑気なことない。

 俺は先程まで寝ていたベッドの上でまた目が覚める。今度は何人もの人間がベッドの周りにいた。

「お嬢様、目を覚まされたのですね!」

 女が駆け寄り、俺の手を握る。改めて小さい手だと冷静になれる。

「カノンさん」

 違う女の声が聞こえる。メイド服を着た女とは態度も雰囲気も極端に違いこの女、年齢に想像のつかない美人として美しさに金を使いそうだと想像できた。

「記憶をなくしてしまわれたとユノから聞きましたよ。普段から乗馬はもうやめるように私は言っていましたよね…もう今回こそはやめてもらいますからね」

 これは不幸中の幸い、危険なことを忘れてくれて助かったわ。貴女はこの家の大事な一人娘なのよ、何か大事になってからでは遅いの。

 と、小言をマシンガンのように吐き出すこの女はまるで母親のようであった。

 しかし、乗馬、金持ち趣味の道楽娘って感じだな。馬に乗って遠乗りするのもいいかもしれないな。この家は金があるのだろう。

 今後の動き方について考えていると、パンっと大きな音がした。

「ですから貴女には来週の王家主催のパーティーに出席し、王子の心を射止める大事な使命があります」

「はっ!?」

「奥様、それはっ!」

 庇うように声を上げたメイド服の女に、

「刻だと、申すのですか?」

「…はい」

「いくら我が娘が記憶を無くしていようともお家の使命を捨てされる通りはありませんよ。ましてや貴女はメイド、我が家に仕えるメイドの貴女に口出しする権限は一切ありませんよ。」

「もっ申し訳ございません!出過ぎマネでした!」

 顔を青ざめ、頭を深々と勢いよく下げるメイド。よほどこの女が恐ろしいらしい。

「おい、こいつを庇う気はねえが俺は、おまえっ…」

「失礼します、遅くなりました」

 間の悪い入室者はこれまたいらないくらい顔の派手な男だった。

「リウム、貴方今日は学友と街へ行くと言っていませんでしたか?」

「遣いがありましたので急ぎ帰って参りました…それでカノンは…」

「突然記憶を失って錯乱してしまったとユノから報告がありましたわ」

「はい、そうです。今朝お嬢様を起こしに行った時にはもう様子がおかしく、ご自身が誰なのか覚えいないようでした」

「そうなのか」

「お医者様にも原因はわからないらしいのですが、この間の落馬との繋がりは薄いと判断していらっしゃいます」

 肩を落とす男。みんながまた一様に落ち込み中で女が平然とベッドに歩み寄ってきた。

 そしてパシンッと大きな音共に女は俺の頬叩いてきた。

「口調まで忘れてしまったとは嘆かわしい、そのような乱暴な平民の口調を教えたつもりはもうとうありませんよ。貴女は誰に何を言われようと王家御三家の一角に座する家の娘、職務を放棄することは許しませんよ。」

 言いたいことをいい終えると、ベッドから離れ扉に歩いていく。

「それからパーティーまでにみっちり再教育致しますので覚悟なさい。」

「パーティー…しかし、カノンはまだ記憶がっ!」

「構いません、今回のパーティーに欠席することの方が相当の痛手ですよ。そんなこともわからないのですか、リウム」

 女は完全に退室し、悔しさだけに包まれる空間が出来上がった。

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【異世界軸】時の気まぐれでも世界は動いている 吉枡ニンジン @nisigaki257

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