エピローグ
新たにオープンしたショッピングモールは休日も相まって混み合っている。
時間は午前一〇時。約束した通り、芽衣咲、春香、玲央、天、そして彩華の五名は駅に集合し、電車に揺られてこの場所に辿り着いた。
普段は部活があるために休日でもジャージ姿の玲央と天はさすがにカジュアルな私服を身に付けている。長身な彼らはモデルのように服がよく似合う。
女性陣も負けじと渾身のオシャレをした。女子高生でいられる期間はたった三年のみだ。今しかできないことを楽しむこともまた、青春だろう。
「思ってたより広いな。テレビで九十九グループのこと観たけど、将来就職先としていいかもしれない」
「はいはい、今はキャリアのことは忘れろ。さーて、どこから行くか」
玲央は天がショッピングモールに感動して自らの世界に浸っている様子を受け流し、彼を現世に呼び戻す。
完成したばかりの広大なモールはどこにどのような店舗があるかわからず、それぞれ興味があるものを案内板を見て探す。
「私たちは服かなー」
「そうだね。彩華も服見に行こうよ」
「うん、行く」
女性はやはりアパレルショップが目的だが、玲央と天はまったく別のエリアを見ていた。
「あった、スポーツショップ」
「本当だ。あとで行こうか」
「どうする? 玲央と天は別行動する?」
春香は、男子をレディースの店で買い物をしている時間に付き合わせることは申し訳ないとふたりに別行動を提案したが、ふたりは腑に落ちない様子だ。
「せっかく来たんだから一緒に回ろうよ」
「ああ、時間はたっぷりあるんだからよ」
「ふたりがいいならその方がいいけど」
玲央は「買い物に付き合うのは慣れてんだよ」と言って、アパレルショップが並んでいるエリアに向かって歩きだす。
「そうだ、最上さん。彼女さんにプロポーズしたらしいよ」
芽衣咲は姉の瑠璃から聞いた話を全員に伝えた。
あれだけ今回の調査に協力してくれて、彩華の人生が再び輝きを取り戻すために勇気をくれた人だ。幸せになってほしい。
「えー、そうなんだ!」
「で、結果は?」
「麻衣さんが断るはずないよ。最上さん一筋だもん」
芽衣咲は、彩華が自らのことのように喜んでいる姿を見て、彼女は他人のために怒り、悲しみ、喜ぶことができる素晴らしい人間であることを再確認した。
この笑顔を私たちが救ったのだと思うと、本当に命を賭けた甲斐があった。次もできるかと聞かれたら、正直肯定はできないけれど。
「今度俺たちで祝おうぜ。協力してくれた感謝も込めてさ」
「それいいね。せっかくだし何か買って渡そうか」
玲央と天は圭を師匠のように崇めている。彼らにとって、圭はバスケットボールの先生であり、人生の先輩であり、憧れの存在なのだろう。
「あー、私も彼氏がほしい!」
「私も幸せになりたいな」
春香と彩華は一度しかない花のセブンティーンを無駄にしたくないと言うが、芽衣咲は学校の同級生に魅力がある人物はいないと思っている。
「俺は大学生になったら歳上の彼女を作るのが目標だ」
「大学に行く目的は勉強だよ」
「それはわかってるけど、恋もしたいじゃん?」
残念ながら、このメンバー間で何かが始まることはなさそうだ。
周囲は彼らと同じような学生のグループ、カップル、家族連れで、皆が楽しそうにそれぞれの会話を楽しんでいる。
芽衣咲は前を歩いている四人の背中を見た。
私たちはこれからもこうして同じ時間を共有して、明るい未来に向かっていく。たとえ、辛い状況でも助けてくれる友人や家族がいる。
踏みつけられても折れない春の芽のように、風に吹かれても散らない華のように、逆境に負けずに前に進み続ける。
「芽衣咲、ボーッとしてると置いてくよ?」
考えながら歩いていた芽衣咲はいつの間にか前を行く彼らとの間に距離が空いていることに気付いた。
駆け出して、春香と彩華の間に割り込むと、ふたりの腕に自らの両腕を絡める。それだけのことが、とても楽しく、とても幸せに感じられた。
人混みの中に消えていく彼らの友情は、まだはじまったばかりだ。
Fin.
零の芽 がみ @Tomo0
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます