第9章

 7人は白雪の死を受け入れられなかった。彼女の家族や、住んでいる場所を聞かなかったことを悔いた。

 不思議なことに、白雪の体は少し冷たくなりはしたが、顔から生気が消えなかった。美しさもそのままだった。そんな彼女を土に埋めることなど彼等にはできなかった。そこで金と硝子で棺を作り、白雪を綺麗な花とそこに入れ、せめて死後は自分たちで絶対に守ろうと決めたのだ。


 そしてしばらく経ち、白雪のもとに1人の男がやって来た。その男、ジェームズは小人たちにすべての事情を話した。7人も白雪を殺した女について詳しく説明した。そこで8人は、その女が女王だとわかり絶句した。


 白雪は自身の母親に殺されたのだ。


 ジェームズは白雪の姿を見た。死さえも彼女の美しさを奪えなかったようだ。ついに結ばれなかった愛しい姫に、ジェームズはそっとキスをした。

 すると……信じられないことが起こった。白雪が、花が開くかのように、ゆっくりと目を開けたのだ。

 白雪は突然のキスとこの状況に戸惑い、ジェームズは驚きと感動で白雪を抱きしめ、小人たちは喜びで涙を流した。


 白雪は今までのことを聞き、悲しみ、信じられず、そしてまた悲しんだ。大好きだった母が自分を殺したというのだ。しかし、今ここにはジェームズがいる。7人の小人がいる。彼等が自分に嘘をつくことはないし、自分は生きねばならない。

 白雪は強かった。自分にとって一番大切なものを瞬時に決める力と強さがあった。だから、今辛くても乗り越えなければならないと思った。自分を見失っては駄目だと思った。そう決意した。


 姫は7人への恩を忘れていなかった。自分が国に帰っても沢山会いに行き、お礼もすると約束した。

 ジェームズと白雪は国に帰り、何があったかを話した。国民は心から女王を慕っていたため、誰もが悲しんだ。白雪たちの話を疑う者もいた。しかし、小人の証言や、谷からハゲワシに喰われたような肉片が発見されたことなどから、この出来事は多くのところに伝わった。他国の者もこれを聞き、人は見かけによらないものだと身震いした。

 そして、次に行うべきことはジェームズと白雪の即位だった。退位なしの即位とは異例だったが、若き王と王妃の誕生に多くの目が向けられた。白雪が皆から愛されていたことに加え、あの出来事もあり、即位の際は姫の成人式よりもさらに多くの人が集まった。

 そんな中、1人の貧しい身なりの女が白雪に声をかけ、言葉を交わし、涙ながらに抱き合った様子を見た者もいるという。


 白雪は今や王となったジェームズに言った。

「私、実はあのりんごに『幸せになれますように』ってお願いしていたのよ。これから何が起こるかなんてわからないけれど、私は今すごく幸せだし、もしかしたらあれは本当に願いの叶うりんごだったのかもね」

 そして、若い2人は笑いあった。


 全てが落ち着き、何もかもがあるべき場所に収まったと思えるような1日だ。


 ところがただ1人、雪の女王だけが勝ち誇ったような冷たい笑みを浮かべていた。

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