第7章
白雪は森の中を彷徨っていた。雪がしんしんと降る中で道を探すのは困難だった。しかし、こんなわかりにくい道こそが良いのだ。ひたすらに、奥へ奥へと進む。
「あった!」
そこには小さな家があった。道を知らなければ辿り着けないような場所に、ひっそりと建っている。ここは、アンが使わせてくれる家だ。考える時間が欲しいという白雪に静かなここを提供したのだ。女王には、勉強のためにしばらくの間姫をアンの城で預かることにしたという手紙を出し、女王が彼女を心配して迎えに来たら、2人の絆はより確かだと言えるのではないか、というのがアンの考えだった。
白雪は1人で生活する能力を十分に持っていた。家事は苦ではなかったし、一人の時間を楽しめるような性格だった。そして、自分のことをゆっくり考えたのだ。
ある日、白雪が暖炉に必要な薪を拾うため森を歩いていた。
すると突然、
「誰だ!」
という声がした。白雪が声の方を向くと、7人の小人がそこにいた。
話によると、7人は森のさらに奥、誰も知らないようなところに住んでいて、木の実採りや狩りをして生活しているらしい。
ところで、この7人には名前がない。他の人とは全くと言っていいほど会わない生活をしているため、名前を持つ必要がなかったのだ。そこで白雪は彼等に呼び名をつけた。小人たちはたいそう喜び、これをきっかけに7人と1人は仲良くなった。
7人は「姫」を知らなかった。白雪を見て、美しい娘だと思うことはもちろんあったが、それ以上に彼女の人間としての魅力を純粋に素敵だと思っていた。白雪にとってこれはどんなことよりも嬉しかった。彼女はどうしたって目立つ人で、身分も何もかも関係なく自分を見てくれる友達などいなかったからだ。
彼等は1週間に1回程度、白雪のもとを訪れ、歌ったり踊ったり、話をしたりした。
「ねえ白雪、もし僕たち以外の見知らぬ人がここへ来ても、ドアを開けてはいけないよ」
小人のうちの1人が言った。
7人は白雪が何かただならぬ事情があってここにいることを察していたが、彼女が話さないので何も聞こうとはしなかった。そういったところも彼女にとってはありがたかった。
白雪はもちろん、正体のわからない相手を家に入れるほど愚かではない。しかし、心配してくれる小人の言葉が嬉しくて、笑顔で頷いたのだった。
「おかしい」
女王は呟いた。アンの手紙を受け取ってから1ヶ月が経っていた。これではさすがに長すぎだ。険しい顔で数分考え込むと、意を決したように彼女はアンの城へ向かった。
城に着くと、近くにいた召使いからアンが食料の確認のために倉庫にいると聞いた。アンは女王の姿を見て驚き、そして白雪のために来たと確かめると嬉しそうに笑った。
「ごめんなさいね、実は……」
アンは自身と姫の1ヶ月前のことを話した。
「そう、私の美しい姫はそこにいるのね」
暗く言葉を吐いた女王の目が、倉庫にあった沢山のりんごを捉えた。
これなら、上手くいくかもしれない……。
「このりんご、いくつかもらってもいいかしら」
「え?いいわよ。白雪さん、りんご好きですもんね」
りんごを受け取り、急いで城を出る女王をアンは笑顔で見送った。
女王はアンから聞いた場所へすぐには向かわなかった。
確実に、上手くやらなければ。この1回を逃せば、もうないだろう。
自分の城に戻る。誰にも見つからないように、注意してある部屋に入った。
鏡があの日映した白雪の姿が頭に浮かぶ。女王は強く唇を噛み、歯ぎしりをした。1時間後、老婆に化けた女王が、毒りんごを持ってそっと城の裏口から出ていった。目指すは森だ。
死の匂いを嗅ぎつけた2羽のハゲワシが、ゆっくりとその後を追う。
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