第6章
白雪とジェームズの結婚は即位とともに行われることになった。ジェームズは自分の国で国王となるための勉強をして、白雪は王妃としての心得を学んだ。
しかし、女王には王妃として過ごした時期が殆どない。あの男は女王が殺したのだし、そもそも王として全く働いていなかったのだから、女王は夫がいたときでさえ、この国のような仕事をしていた。
彼女は白雪に、父親は早くに亡くなったとしか伝えていなかった。白雪が城の前に捨てられていた頃、女王は事務的な仕事に追われ、他国と殆ど関わっていなかった。そのため、初めて白雪を見た他の国の人々も、出産のために忙しかったのだろうと考えるだけで、だれも実の娘であることを疑わなかったのだ。
そのため、信頼できて王妃としての仕事に詳しい人物が必要だった。となるとそれはアンの他いないだろう。
彼女は良い教師だった。女王の頼みを喜んで引き受け、丁寧に一つ一つ姫に教えてくれた。アンにとってもまた、白雪は良い教え子だったようだ。子供のいない彼女にとって、親友の娘はことさらに可愛く見えるらしい。
白雪もジェームズも頭が良く、2年以上かかるはずの必要な勉強を1年半とかからずに終えられそうだという報告が届いた。
ある日、白雪がアンの城へ行っている間、女王はばあやと話をしていた。女王は不意に自分の両親の話を聞きたくなり、城で一番長く働いているばあやの部屋に行ったのだ。
ばあやは亡き王と王妃、女王、そして白雪をとても愛していたからそれは楽しそうに話してくれた。そんな中、ばあやの部屋にそっと近づく者がいた。白雪だ。彼女にとってばあやはかなり年上の友達みたいなもので、アンの城から帰って、頂いたお菓子をあげようと思ったのだ。
しかし、部屋のドアを開ける直前に、聞き覚えのある声を耳にして、白雪は手を止めた。
「お母様?なぜここに……」
そう呟いて、思わず聞き耳を立てた。
「本当にお嬢様は良い子です。良い子ですとも。私の自慢です」
ばあやが言った。
「そうね……。あの子の母親は今のあの子を見たら何というかしら」
……え?
白雪は何の話をしているのかわからなくなった。自分の母親は、今まさにここにいるではないか。
「まあ、女王様。白雪姫の母上はあなたですよ。あの雪の日に、姫様を拾った日に、そう決めましたでしょう?」
白雪は、指先がどんどん冷たくなっていくことに気がついた。混乱する。
「えぇ。知らなくていいことね……」
姫は気を奮い立たせて、音を立てずになんとかその場を去った。そして、自分の部屋でひたすらに考えていた。
自分は、女王の娘ではない?
よく考えてみたら、いつだか見た亡き王の肖像画に自分が全く似ていないこと、女王が頑なに父の話をしないことなど、引っかかる部分はあったように思う。
それに、最近女王が自分と顔を合わせないような気がしてならなかった。避けられているように感じていた。
なぜ教えてくれなかったのだろう。そのことにも少し腹が立つ。白雪と女王が共に過ごしてきたことは事実だ。血の繋がりがなくとも2人は親子である。しかし、頭でわかってもそういうものだと割り切れはしない。感情が追いつかないのだ。女王やばあやにこの後会って上手く笑える自信もなく、しばらくの間1人になって落ち着きたかった。
30分ほど後、白雪は雪の国に立っていた。アンの国だ。姫が今の状況で頼れるような人は彼女だけだった。
先程今日の勉強を終え、帰ったばかりの白雪が来たことにアンはとても驚いていた。取り乱した様子の白雪を見て、何かあったと察したアンは彼女の好きなりんごのパイと紅茶を淹れて話を聞いた。悩む白雪に、アンは1つ提案をした。
「……こういうのはどうかしら?」
そして、白雪は姿を消した。
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