第29話 ~栞side~ ドロップアウト

ドロップアウト(dropout)

[名](スル)

1 脱落すること。また、管理社会におさまることができなくて、枠の外に抜け出ること。落伍(らくご)。「エリートコースからドロップアウトする」

2 脱退。中途退学。また、中途退学者。


 わたしは中等部二年から三年に上がる春に『ドロップアウト』した。

『ドロップアウト』といっても退学したわけじゃない。

 うちの学校の場合、特別進学コースから進学コースに移ることを『ドロップアウト』っていうんだ。


 うちの学校は日本で一番頭のいい大学に、毎年何人も現役で合格者を出している。

 だから、当然勉強は難しい。

 みんな、学校のほかに塾に行ったり、家庭教師をつけたりしている。

 それでも授業についていけなくなると、学年が上がるときのテストによって、毎年じゃないけど『ドロップアウト』する人がでる。


 うちの学校は頭の良さが絶対的な正義。

 普通の中学校のように、運動ができるだけ、かっこいいだけ、かわいいだけ、面白いだけというのでは、スクールカーストは上がらない。

 むしろ、「運動ができるのに頭は……」、「かわいいのに頭は……」っていわれてしまう。

 そんな学校でクラスが変わってしまう事態は、確かに『ドロップアウト』という表現が一番わかりやすいのかもしれない。

 生徒の前では表立っていわないけど、先生同士の会話でもその言葉を使っているらしい。


『ドロップアウト』した生徒に居場所はない。

 特別進学コースの元クラスメイト達には「脱落者」として扱われ、見えない存在になる。

 移った特別のつかない進学コースのクラスメイトには、仲間外れにされる。

 ここの学校を受験するときに、みんな頑張って特別進学コースを目指すから、そこから『ドロップアウト』してきた人間をクラスメイトとは認めないということみたいだ。

 だから、みんな大体転校していく。


 でも、私は『ドロップアウト』したけど、みんなからまだ見えている。

 それは相澤哲人くんと付き合っているからだ。


 てっちゃん(告白した日に、こう呼ぶことに決めたんだ)は特別進学コースの中でも頭がよくて、うちの学校はテストの成績の真ん中まで貼り出すんだけど、いつも五位以内に入っている。

 別にてっちゃん自体が偉ぶっているわけじゃないけど、そんな人の彼女だからまだ見えている。

 進学コースのみんなは面白くないって思っている人もいるみたいだけど、そんなこと思われてもわたしにはどうすることもできない。


 てっちゃんに告白した理由は、正直そのことが大きい。

 だって、みんなに無視されたくなかったから。

 だって、見えない存在になりたくなかったから。


 わたしの考え、変なのかな。

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