第18話 ターニングポイント

 栞と別れ、年を越して僕の誕生日になった。


 法律上、僕は十六歳になった。

 しかし、閏年閏日生まれの僕にとっては四度目の誕生日だった。(戸籍はちゃんと二月二十九日が出生日となっている)

 一度目の誕生日、今でもたまに弾き、のちに学人とクリスマスで連弾することが恒例になったピアノを習い始めた。

 二度目の誕生日、数学の大会で優秀な成績を収め、初めて自分が人より『できる』ことを認識した。

 三度目の誕生日、中高一貫校の合格が決まった。

 僕の中で四年に一度の誕生日は、常に人生のターニングポイントだった。

 そして四度目の誕生日、それは通信制高校への転入が決まった日だった。

 輝かしい誕生日の歴史の中で、四度目の誕生日はマイナスの人生へのターニングポイントだと思った。

 一般的には成人になる五度目、働いている(以前なら大学院生や医学生という選択肢もあったであろう)六度目、その先のターニングポイントにもなんの希望も展望も持てなかった。


 スマホでネットニュースを見る。

「なんにも面白いことないな」

 本当に面白いものがないのか、面白いものを見つけるようとする気持ちがないのか、自分でもわからなかった。

 そんな僕に、一つの記事だけが目についた。


「遺伝子編集でアルビノのヘビ、作成に成功(世界初)」


 遺伝子編集で何かを作り出すのは『神の領域』とテレビで特集されていた。

 そして、その『神の領域』でアルビノのヘビが作られた。

 不死身の幽霊と信じられる子供。

 森の主と呼ばれる象。

 学人が気持ち悪いと踏み潰した団子虫。

 その全てがアルビノだった。

 恐れられ、崇められ、不快に思われるアルビノ。

 それらは人の価値観で決められたこと。

 アルビノはアルビノというだけで、自ら望んだのではなくそう決めつけられてしまう。

 そこに僕は強い恐怖を覚えた。

 そして今度は、その存在自体すら、人が作りあげられるようになったのだ。

 人が作り上げたアルビノのヘビのことを、人は今度はどんなふうに決めつけるのだろう。

 恐れたり、崇めたり、不快に思ったりするのだろうか。

 そんなことを考えながら僕は、通信制高校の始業式を待った。

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