第14話 名探偵神楽坂
「芽亜ちゃん?何してるの?……あっ、おねーざ!?」
ある日の放課後、私が物陰から様子を伺っているのを見つけたアナがその目当ての先輩に向かって声をかけようとしたので、慌てて手で彼女の口を塞いで物陰に引き戻した。
「な、なにするの!?」
「しー!先輩に気づかれちゃうじゃん!」
何をされたのか分かってないアナは小声で私に詰め寄ってくる。私は静かにするように促して、改めて物陰から先輩の様子を伺った。
先輩は放課後だと言うのに数人の男女に囲まれてひっきりなしに話しかけられていた。
「ねーなんで声掛けないの?私早くお姉さまの温もりを感じたいんだけど」
「ちょっ、我慢してっ!寒いなら私が代わりに温めるから!」
私は小さいアナが逃げないようにギュッと抱きしめて耳打ちする。
「先輩が普段一人でどうしてるか気にならない?」
「んぇ?」
「私達普段先輩に凄い良くしてもらってるけどさ、実際先輩の事よく知らないでしょ?」
「あー」
アナは確かにと言った感じに頷いているが眉を八の字に曲げて納得は行かないと言った表情だ。
私も先輩と出会って一月なのにアナに至ってはまだ1週間と経っていない。……まぁ先輩自体良い人で私達を贔屓せずに扱ってくれるし。良い人だし?すっごい素敵な人だし?だから他の誰にも渡したくないっていう気持ちの方が強いけど、私は普段私達に見せる姿じゃない先輩がどんな姿なのかふと気になったの。
「―――――という訳で先輩のこと観察してるのよ」
「芽亜ちゃん……変態っぽい…」
「ぐっ……!わ、分かってるわ。でもさアナも気になるでしょ?」
「まぁ、気にならなくは無いけどぉ」
「ね?今度プリン奢るからさっ!」
「モンブランで手を打ったげる」
「よし乗った」
私達は頷き合うと二人で覗き見た。先輩はまだ人と話していてこっちには気がついていない様だ。
「何話してるんだろうね」
先輩に向かって何かを話しかけている生徒達。でも先輩の顔はどこか退屈そうに見える。
「お姉さま退屈そう」
「やっぱりそう見える?」
本当に些細な違いだし、普段一緒にいる私達だから気がつけたのかもしれない。
「あっ周りの人達帰ったよ!」
「先輩も移動するみたい、見つからないように着いていこ」
◇
先輩は次に屋上にやって来ていた。今日は綺麗な青空が広がっていて爽やかな春の風が気持ちいい。柵に手をついて風を一身に受ける先輩の腰上まで伸びた綺麗な黒髪がサラサラと靡いて本当に綺麗に見える。
「あーあ、ほんと疲れたなぁ。もうなに言ってるかさっぱり分からないんだもん」
独り言を呟く先輩。やっぱり退屈だったんだ。ふふっ、本当に本心は飾らない人だなぁ。そういうところが安心できるんだけど。
「ねぇねぇ芽亜ちゃん、もう行ったらだめ?」
「えっと………」
私がどうするか考えていると図ったようなタイミングで先輩が呟いた。
「本当にどこ行ったのかな二人とも。いつも来てくれるから待ってたら絡まれちゃうし」
メッセを送ろうとしたらしく携帯を弄っている先輩。直後通知音が2回、静かな屋上に鳴り響く。
「だ、誰がいるの?」
やばっ、バレ……。私がそう思った時には遅かった。アナは私の静止を振り切って先輩に向かって走り出してしまった。
「お姉さま〜!!」
「おおっと、アナちゃん!?なんでここにいるの!?」
飛びついてくるアナを軽々受け止めた先輩は不思議そうに小首を傾げている。流石にもう隠せないかぁ。
「すみません先輩、後つけちゃいました」
舌を出して謝ると先輩は怒るわけでもなく、笑って返してくれた。
「もー何よ二人して〜。え、じゃあ私の独り言もずっと見られてたの!?」
「お姉さま退屈だったんですね〜」
「恥ずかしい…!もー悪い子だなぁ、こうしてやるぅ!」
「きゃー!くすぐったいよお姉さまぁ!」
アナの脇をくすぐってイタズラする先輩に私は少し罪悪感を感じていた。ふとした出来心で観察してしまったけど、諌められる訳でもなくただ笑って流してくれたから。先輩の優しさが少し心にチクッとトゲを立てた。
「それにしてもなんで探偵みたいなことしてたのー?」
「え、えっと……」
「芽亜ちゃんがお姉さまの事もっと知りたいーって言ってたよ?」
「あ、アナっ!」
「えー?これ以上私の何が知りたいの?」
先輩は口元を抑えて笑いながら私との距離を縮めてくる。
「ご、ごめんなさいっ!出来心で先輩に隠れて付けるようなことしちゃって」
「え?なんで謝るの?謝るような事した?」
「え?」
私は思わず聞き返してしまった。
「芽亜と私ってもう気の許せる仲だけど実際には会ってから一ヶ月しか経ってないもんね。お互いの事が知りたいのは当たり前だよ」
「怒ってないんですか?」
「怒るような事でもないからね。むしろ私はそんな風に思ってくれて嬉しいかな」
この人はなんて綺麗な人なんだろうと私は思った。美貌はもちろんの事、性格が綺麗だ。
「ほらー、芽亜ちゃんが思うよりお姉さまはこういう人だもん。」
「ほら、こっち向いて?」
「先輩?」
先輩は私のめの前に立つと私の体を優しく抱き寄せてくれる。柔らかい感触と爽やかなミントの様な香りがいっぱいに広がる。
「私も芽亜もアナちゃんもまだ出会ったばっかで知らない事もいっぱいあるでしょ?でも別に直ぐにその穴を埋めようとしなくても大丈夫だと私は思うんだ。少しずつ、一つずつ埋めていけばいいんだから」
「……はい!
「じゃあもう今日は帰ろうか。疲れちゃったよ」
「「おー!」」
こうして私のちょっとした探偵ごっこは幕を閉じたのだった。一つだけ成果があるとしたら先輩の優しさを再確認出来たことかな?
私達は先輩を真ん中に家への帰路を急ぐのだった。
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