第11話 ロシア人幼女 アナスタシア
私の学校は噂が直ぐに広がる。先日の芽亜の件もそうだけど海外からの留学生とかの情報もね?一年生として入学した二人の留学生。イタリアから来た芽亜とは別のもう一人の噂も最近よく耳にするようになった。何故かひっきりなしに私に一方的にそんな噂を話してくる子がいるおかげかもしれないけどね…。
「最近よく芽亜ともう一人の留学生の噂をよく聞く気がするね」
「なんですか?先輩留学生浮気ですか?私という存在がありながらっ!」
「留学生浮気って何そのおぞましい単語は…」
私は芽亜に購買へと歩いている間にふと思い浮かんだ話題を振ってみた。
「冗談はそれとしてアナの事ですよね。ロシア人の」
「知り合いなの?」
「はい!なんせ同じ!留学生ですからね〜?まぁと言ってもアナは結構前に日本に来たみたいでロシア語より日本語の方が得意みたいですけど」
「へ〜そうなんだ。」
「それでどうしたんですか?急にアナの話題なんて」
「いや、最近よく耳にするな〜って思っただけだよっ!?」
「きゃっ」
私は不意に目の前に現れた人に反応出来ずにぶつかってしまう。ぶつかった相手はとても小柄な人の様で大量のノートを持っていた為に前がよく見えなかったらしく、ぶつかった拍子にノートを撒き散らしてしまった。
「ごめんごめん!大丈夫?怪我してない?」
「は、はい…大丈夫です。こちらこそ前…見損なっててごめんなさいです」
私は慌てて屈むと散らばったノートを集めるのを手伝い、改めてその相手を見て驚いた。
「え、かわっ……」
つい可愛いと呟いてしまうほどその女の子は可愛かった。真っ白なお餅のような肌にふわふわとした柔らかそうで腰まで伸ばしたボリュームのある銀髪。パッチリとした碧眼はとても大きくて硝子玉のような輝きを放っている。背丈は芽亜よりもうんと小さくて、言われなきゃ小学生にしか見えない。小動物のような愛らしさを感じるその子はさながらお人形の様だった。
「アナ?どうしたの、そんな大きな荷物」
「芽亜ちゃんじゃないですか。先生に頼まれたんですよ」
この子が件のアナちゃんなの?確かにロシア人の子供ってこんなとてつもない可愛さだよね。元から知り合いだった芽亜が話しかけるとアナちゃんはその顔をニッコリと咲かせて見せた。
「この子が言ってたアナちゃん?」
「そうですよー、私の友達のアナです!」
「聞いてた通り本当に可愛いね〜。私は神宮寺楓、よろしくね?」
「スミノフ・アナスタシア・イヴァノヴナです。呼びやすいようにアナって呼んでください!それより芽亜ちゃん神宮寺先輩と知り合いだったの?」
「私の事知ってくれてるの?」
私が尋ねるとノートを一旦置いたアナちゃんはずいっとその整った顔を近づけてきた。
「当たり前ですよ!先輩の事ぐらい噂に疎い私でも知ってます!綺麗な人だな〜、話してみたいな〜ってずっと思ってたんです!」
「そうなんだ、なんか照れくさいね。でもありがと、私もあなたの事は聞いてたから会えて嬉しいな」
「先輩が私の事をっ!?えへへ〜嬉しいなぁ〜」
両手を頬に当てて嬉しさを表現するアナがもう本当に可愛くて仕方ない。公共の場じゃなかったら思わず抱きしめちゃってそうだよ。
「芽亜、この子めちゃくちゃ可愛くない!?」
「それには同意ですけどなんか釈然としないです!私も見てください!」
そういって詰め寄ってくる芽亜も十分可愛いのだが、なんかこうわかるでしょ?可愛さのベクトルが違うのよ。
「はいはいよしよし」
「投げやりだし最近雑ですよ先輩…」
私と芽亜のやり取りを見ていたアナちゃんは何を思ったのかこんな事を頼んできた。
「芽亜ちゃん気持ちよさそう…。せ、先輩っ!良かったら私も撫でてくれませんか!」
「ええ!?」
「お願いします〜!」
芽亜が若干嫌そうな目を向けてくるが、ここで断ったら流石に可哀想だし私は優しくアナの髪の毛に触れた。……すごい、何この気持ちよさっ!撫でられて気持ちよさそうな猫のような鳴き声を上げるアナの髪の毛はさながら雲を撫でているような感覚だった。
「〜〜ッ!!ごめんねアナちゃん!」
私は思わず謝りながらアナちゃんを抱きしめてしまった。……何この感覚。皆も小さな子供抱きしめた事ある?体温高くて恐ろしく気持ちがいいやつ。あれだよあれ。もう本当に癖になりそうなくらい気持ちがいい。
「楓先輩!?」
「うわ〜神宮寺先輩に抱きしめられちゃった〜。どうしよう、嬉しいな〜」
驚きで目を丸くする芽亜と抱きしめられて嬉しそうにするアナちゃん。
しばらくして私がアナちゃんを解放するとなんとも不満気な顔をした芽亜が腕に抱きついてきた。…どうしたって言うのよ一体。
「ごめんね、急に抱きしめちゃって…。我慢できなかった」
「いえいえ!私も憧れの先輩に抱きしめられて嬉しくて死んじゃいそうですから」
「ほんと可愛いなぁ。おっと、もう結構引き止めちゃった。ごめんね」
「大丈夫ですよ、私も話せて良かったです!」
芽亜が私の腕から離れるとやれやれと言った感じでアナちゃんからノートを半分以上受け取った。
「アナだけじゃ大変そうですので私も手伝ってきます」
「芽亜ちゃん!」
「うん、了解。また放課後ね?」
「はい、では!」
アナちゃんは軽く会釈すると芽亜と一緒に一年の教室へと向かっていった。
芽亜もなんやかんや言って優しいよね本当に。…というかあんなに拗ねた芽亜も久々に見たなぁ。私に抱きしめられるのってそんなにいい物なの?
◇
私はアナを手伝ってノートを運び終えるとアナは興奮した様子で話しかけてくる。
「芽亜ちゃん先輩といつ知り合ったの!?知らなかったよ!」
「1ヶ月くらいまえ…かな?結構噂になってたよ?」
「あー私芽亜ちゃんくらいしかちゃんとした友達居ないから…」
アナは先輩と同じく高嶺の花感があるのか、あまり人が近寄ってこないタイプの人間だ。さながらお人形の様に思われてるのだろう。
「……仕方ないなぁ。アナも放課後一緒に帰る?」
「いいの!?」
「先輩もアナの事気に入ってると思うし大丈夫だと思うけど」
「やった〜!あっ、先輩の事『お姉様』って呼んだら怒られるかな?」
「いやそれは分かんないけど…」
アナは少し不思議な子だ。人と距離感の詰め方が少し下手なので自分から詰め寄る事は絶対にしない。だけど一度懐くととんでもなく懐いてくる…。そんな子だ。でもこんな可愛い子に詰め寄られたら断れないのも分かる。……でも流石に節操無さすぎですよ先輩!
私は心の中で先輩へ愚痴をこぼすのだった。
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