第10話 広がる噂

 芽亜の引越しが済んで数日しか経ってないのに学校には私と芽亜が一緒に暮らしているという噂が流れていた。


「流石におかしいと思わない?」

「ぶっちゃけ先輩ほどの人気があればいつどこでも監視されてそうな気もしないでもないですけど…」

「あーもう本当に気が休まらないなぁ」


 私は朝っぱらから芽亜の事を尋ねられるという地獄のような質問攻めを食らっていたのだ。私が誰と暮らそうがあなた達に何の関係があるのよ…。

 私が疲れて机に突っ伏して芽亜に愚痴を垂れているとまた集団が近づいてきた。…あれ?この人達ってこないだ芽亜に突っかかってた人だっけ…?


「神宮寺さん!そこの一年生と同棲してるって本当なんですか!?」

「神宮寺さんと同棲とか羨ましい…」

「どう足掻いても男のあんた達は無理よ!」


 私はなるべく笑顔を取り繕ってリーダー格の女の子に尋ねる。


「もし仮にそうだとして何か問題でもありますか?」


 私はなんでこんなに聞かれるのか知りたかったので当然の質問だと思う。しかし女の子は驚いたような訝しんだ表情で驚きの言葉を言い放った。


「あら知らないんですか?その子留学前の学校で虐められてたらしいんですよ?そんな経歴の子が神宮寺さんに見合うとは到底思えません」


 何を言っているのだろうか…。芽亜が虐められていたから何?なんでそれで私に釣り合わないことになるの?

 横に立っていた芽亜はバツが悪そうに顔を顰めている。今までそんな事を一言も漏らさなかったってことは芽亜にとっても知られたくない事実だったんだろう。

 だから私は芽亜が傷つけられた事が1番腹が立っていた。

 私は立ち上がると芽亜を抱き寄せて庇うようにしながら笑顔で反論した。


「虐められていたから…何ですか?」

「そんな事も分からないの?そんな落ちこぼれの子に情けをかけるくらいなら私達と一緒に過ごす方がよっぽど有意義でしょ?」

「随分と自分に自信があるんですね〜。ならそんなに優秀なあなた達とは到底釣り合わないので金輪際近づかないでくれますか?」


 笑顔で述べた明確な拒絶。しかしこれで伝わったと思った自分が馬鹿だった。


「いえいえ神宮寺さんほどの人なら歓迎ですよ!だから…ね?」


 何がね?よ本当に腹が立つ。


「ほら早くこっち来いよ!時間無くなっちまうだろ!」


 イライラした取り巻きの男が私の手を強引に掴んできた。流石は男子と言うべきか、力で全く敵わない。


「めて…。やめてっ!」


 芽亜が涙を浮かべながら思いっきり男の手を払い除けた。


「私と…先輩が仲良くして何が悪いんですか!!あなた達は先輩の輝かしい肩書きが欲しいだけで先輩の事何も見ていない!そんな人に先輩は渡せません!」

「あなた前も同じような事を言ってくれたわよね…?」

「何度でも言います!先輩に近づかないでください!」

「いい度胸ねあなた…。私に向かってそんな口を聞くなんて。覚悟しなさい」

「あなたこそ私の芽亜を泣かせてくれちゃってタダじゃ済まさないから」


 私は少女を睨みつけると芽亜を連れてその場を後にした。本当に面倒臭い子に目を付けられちゃった物だ…。本格的にどうしたらいいのやら…。

 誰も居ない屋上に上がると春先の暖かい空気が私たちを優しく包み込んでくれる。

 芽亜は涙を拭いながら私に謝ってきた。


「ごめんなさい、ごめんなさい先輩…。私が付きまとったばっかりに変な人に目をつけられちゃって…」

「もう、いつもの元気はどうしたの?あの無邪気さが芽亜のいい所じゃない」

「でもっ…」

「あんな人達気にしちゃダメ。芽亜が昔に何があったかなんて私には関係ないもの。私は私の友達の芽亜が好きなんだから、別に何かを聞いたからと言って芽亜に対して何も変わらないから」

「うっうう…」


 涙を堪えきれずに流ししまう芽亜の頭を私は抱き寄せる。小さく震える肩がなんともいじらしい。こんなにも優しい子なのになんで他人に傷つけられなきゃ行けないのかな。

 芽亜にはもうずっと笑っていて欲しいと切に思う。


「いい?芽亜。私達は先輩後輩であり友達であり家族なの。だからお互い支え合って行けばいいんだよ。だから…一人で背負わなくてもいいんだよ。私が一緒に背負ってあげるから」

「うぅっ…、せんぱいは優しすぎます…」

「相手が芽亜だからだよ」

「っ!!もうほんとずるずるですね先輩は。……分かりました。もう気にしません。昔の事も封印します。だからこの面倒臭い試練を一緒に乗り越えましょうね先輩!」

「頑張ろうね、芽亜」


 まぁ具体的に何をしたらいいか全く分からないのだけどね?とりあえず無視をする所からとか?何にせよあの人達にはもう近づかないで欲しいと切に思う限りだよ…。

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