終焉

 嵐のように男は突然やってくる。

 甚大な被害をもたらすと共に、恐怖を植え付ける。

 それは感染性の病のように広がり、いつの間にか国を飲み込んだ。だが不思議なことに、いつしか男は人々に受け入れられ、共存へと進む。

 果たしてそれは、どちらの生きる知恵だと言うのか。本当の強者はどちらなのか。





 高台から見えるのは大きな国。蛇ノ目はそれを高台にそびえ立つ大木の上から眺めていた。

 ここはどうやら天災の影響はさほど受けてはいないらしい。食料調達のため、この国の前に小さな村に寄ったが、あそこもこの国の領土らしい。随分と広い面積を保有しているようだ。

 この国には火とはまた違う明かりがポツポツとともっている。火よりも淡い、だが幻想的だ。夜空を地上に無理矢理作り出しているようにも見えた。それはきっと、人間たちの技術の成果であり、同時に犠牲の誕生でもある。地上の光で国の上の夜空は霞んで見えた。

「くー、綺麗だなあ」

 それでも、それは綺麗だと思う。いったいどうやってあの光を灯しているのだろう。蛇ノ目の好奇心は光に集中する。

「きっと、六呂も沙耶も知らない。でも、あいつらにはもう教えてやれないな」

 だが、灯羽は別だ。あいつはまだ生きている。自分の話を聞くことができる。

「誰もいないのは、寂しいってやつなんだろうな。なあ、くーお前もそう思うだろ?」

 不満気な声が聞こえた気がした。

 わかってる。俺にはお前がいるから、誰もいないなんてことはないだろうよ。

 くーの骨の中に風の音が反響していく。それがくーの声に聞こえて、なぜか心が苦しくなる。また知らない感情だ。悲しいとは違う、不思議な感覚。

 灯羽に借りた本の中に、愛情という言葉があった。それを説明するにはなかなか骨が折れると、灯羽は困ったように笑う。実の所、灯羽もよくわからないらしい。父と母、そしてその子供。家族というその関係性は愛情を具現化したものだとも言っていたが、それについてはあまり納得は出来なかった。家族が愛情だと言うのなら、沙耶たちは当てはまるのだろう。だが、俺にはない。もうも思い出せる影もぐにゃりと曲がった2つの存在。あれは家族にはならなかった。

 くーに向けるものが、愛情だったのか。だとしたら、くーはやはり家族だ。だが、くーとの時間を言葉で言い表すことはできないとも思う。

 くーさんとは別に、いつかは経験すると思います、と笑っていた灯羽。

 そのいつかとは、いつ来るのだろうか。俺はたぶん短気ってやつだからあまり時間がかかると苛立ってしまう。ついでに、あの国で探してみることにしよう。

 人ではなく物からも知識を得ることができると知った。大きな国には多くの知識が詰まっているはずだ。

「くー、お前は俺の群れの一員で悲しいで希望で家族らしい。もしかしたら、あの国でまた新しい存在になるかもな」

 くーはくーだけど、他にいろんなものになる。そうする度にまたくーが好きになる。

「俺は、くーにとってなんだった?」

 くーも俺と同じことを思っていてくれたら嬉しいと思える。

 


「さて、行くか……」

 座っていた大木から飛び降り、そのままの勢いで高台から落ちていく。

 いつしか風には馴染みのない匂いが混ざるようになった。生き物の匂いとは違う、少しの生臭さ。

 この国の先に、その正体があるのだろうか。鼻がいいから、もっと先の匂いを捉えているのかもしれない。

「まぁいい。行ってみればわかることだ。くーも気になるだろ?」

 望むのは確かな愉悦。自分の体の至る所で共鳴する至上の喜び。

 ニタリと釣り上がる口角は、弱肉強食の頂点に立った時、どう変化してしまうのだろうか。

 悲鳴と狂喜を奏でた先にその答えかあるのだと思う。今夜も楽しんでいこう。



 


 その夜、どこかの国にも嵐がやってきたのだ。

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