第26話

「1人だと!?」

「はい、北街を襲ったのは男ただ1人です」

調査員たちが持ち帰ったのは信じられない話。たとえ一部だとしても、北街が壊滅し、その犯人は男1人だと言う。衛兵の被害は大きく、男は街の衛兵の半分以上を倒してしまったようだ。


「もともとは化け物と一緒だったそうです」

「化け物?」

「はい、角羅です」

その名前は聞いたことがある。もちろん姿を見たことはないが、恐ろしい生き物だという。男は角羅を手懐けていたというのか。


「角羅は討伐したようです。ですが、結局男が1人で衛兵を蹴散らしたと」

「嘘ではないのですね」

「はい、目撃者は多数います」

「その男は今どこに?」

「実は、ある日突然街を出たそうです。それ以来戻ってきてはいません。拠点を変えた可能性も考えられます」

男はしばらく北街に滞在していたらしい。その男の追跡をしてもいいが、行き先が全く分からない以上、それは無駄足になるだろう。

だとすれば……






「それで、北街に滞在させることにしたのだな」

「はい。男の目的がわからないため、唯一所在がわかった北街を張っていた方が的確であると考えます」

「たしかにな、それで街1番の駿馬を連れたのか」

「そうです、何かあればすぐに伝わるようにしております」

北街は南街の商人も時おり出入りする。もしかするとより早く情報を得ることが出来るかもしれない。それは調査員たちの手腕によるが。


「父上たちからもこの問題については我々に任せられている。頼むぞ、灯羽」

「はい宗様。おまかせを」

宗様も領主様も、あまりこの問題は危険視していないように思えた。男1人が犯人だと言えば、冗談だろうと笑ったぐらいだ。確かに信じられない。だが、信じられないほどの自然の暴挙が実際にあったでは無いか。閉鎖的になったからこそ、この街の外について、私たちは見えていないことが多い。想像もつかない出来事や生物が現れても気がつけない。

宗様は真面目に話しているように見えて、とくに考えを持っているわけではない。ただ私の案を待ち、それに頷くだけだ。慎重すぎると言われるのかもしれないが、私はこの街を守りたい。


まるで夢物語のような強さを持つ男。その存在とこの思いが杞憂であればいい。

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