第24話

門は固く閉ざされている。しかしこの木の壁がなんだというのか。

大して高くもない塀を、バリ、バリと音を立てて、凹みを残し、上へ上へ。初めてこれを越えた時よりもずっと早く頂上へたどり着いた。蛇ノ目の背後には太陽が昇っている。街の地面には、蛇ノ目の影が大きく現れた。


辺りを見渡せば、怯える者ばかり。だめだ、これではつまらない。


屋根をつたい、音を立てながら、街に降り立つ蛇ノ目。先ほどの兵士たちがまだそこにいる。


「さぁ、敵が入ってきたぜ。武器を取れ、切先を向けろ、獣のように立ち向かえ!!」

悲鳴に近い雄叫びをあげて襲いかかったのは若い兵士。両手で構えた剣を振り上げ蛇ノ目に向かう。彼はこの街を守るため、勇敢に立ち向かったのだ。


剣は蛇ノ目の体の横をシュッと音を立てて通過した。またしても弄ぶように、刃をギリギリで避けた蛇ノ目は、剣の勢いで頭を下げた兵士の額に左膝を強く打ち付ける。鈍い音と共に、兵士の体は宙を舞い、崩れる。


「さぁ次だ。まだまだいるんだろ?」

骨の奥から響く声は更に兵士の恐怖を掻き立てる。勇敢な兵士もあっという間に倒されてしまった。いったい自分たちに何が出来るというのか。戦闘では先陣を切って、自分たちを導く告松はもういない。剣も矢も、奴には届かない。



もうダメだ。

兵士は持っていた剣を捨て、ただただ命乞いをした。そんな情けない兵士たちを非難する住民はいなかった。それほどまでに蛇ノ目が恐ろしいのだ。今は、少しでも多くの命が助かることを祈るばかり。子供も女も、みな膝を着いて許しを乞う。彼らは決して何か悪さを働いたわけではない。自分が生きていくこと、その許しを蛇ノ目に乞うている。



その光景を、蛇ノ目は受け入れられなかった。追い詰められたうさぎやネズミの方がまだ抵抗する。祈るのではなく、肉食のものよりも遥かに弱く小さな爪と牙で立ち向かう。


「なんだ、それ……」


その剣はなんだ。その鎧はなんだ。

それは戦うためのものではないのか。


「つまらねぇ……」

先ほどまで昂っていた感情がスンっと消えてしまう。こんなものを蹂躙してもつまらない。自分はこんなものを望んだのではない。


初めて対峙した時はもう少し遊べた。スリルがあった。楽しくない楽しくない楽しくない。



ああ、そうか。そういうことか。

ここの人間は、もう俺の強さを知っている。弱い生き物は、わざわざ自分から強者に牙はむけない。さっきの男も告松も、あれはきっと俺のことをまだ強者だとはしらなかった。なら、誰も俺のことを知らない場所へ行けばいい。

正、西、南、北……そうだ、東だ。ここから1番遠い街。そして1番大きな街。あそこならもっと強いやつがいるはず。きっと、もっともっと楽しめるはず。


無邪気にそれでいて残酷に、骨の奥で蛇ノ目の顔が歪んだ。

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