第23話
正街の壁から現れたのは数十人の男たち。この街を守る兵士だ。蛇ノ目が去って以降、兵士は告松によって統率され、部隊による仕事の違いはなくなった。兵士全てが街の防衛を担う。この日も、先頭に立つのは、沙耶を殺した、告松であった。
蛇ノ目は背中に回していた骨の面を頭に被せた。気持ちが昂り、今かいまかと戦いを待っている。
「どれが告松?」
馬に乗った彼らが近付くと、低い声が響いた。骨のくぼみから、瞳がぎらりと光っている。
「告松は私だ、貴様は何者だ。ここへ何をしにきた」
「そうか、お前か」
思ったよりも弱そうだ。これはすぐに終わるだろうな、蛇ノ目は少し退屈そうに肩を回す。告松の問いに答える気は無いのだろう。大きな骨で顔を隠しているせいか、この男が蛇ノ目と気付く者はいない。
「お前は俺の縄張りを荒らした。だから殺す」
彼らからしてみれば、縄張りを荒らしているのは蛇ノ目のほう。しかし、そんな相手の都合など、蛇ノ目にとってはどうでも良いことだった。
「何をふざけたことをっ!さっさと立ち去れ!」
馬上で剣を抜き、告松たちが向かってくる。地面を平行に滑る刃は確実に蛇ノ目の首を狙っていた。しかし、体を横に避けた蛇ノ目に掠りもせず通過する。まるで相手の動きが止まっているかのように、蛇ノ目はひらりひらりと全ての刃を避けていく。
自慢の剣術が通じないことに苛立ち、馬から降りた告松。姿勢を低く蛇ノ目に飛び込んだ。その低さと速さで、正街では敵無しと言われる告松であったが、蛇ノ目は迫る告松の肩に手を付き空中へ舞い上がる。またしても告松の刃は届かなかった。
告松の背後へ回った蛇ノ目は顔が自分の方へ向くと同時に、左足を顔へ叩き入れる。骨のくだける音と、声にならない悲鳴。数メートル先へとばされた告松はピクリとも動かない。
以前、蛇ノ目が暴れてから、この街の最強の兵士は告松。しかし、それが呆気なく倒されてしまった。ほかの兵士は足の先から頭のてっぺんまで震わせて、蛇ノ目を恐れる。誰も武器を取ることができない。この化け物に、誰が勝てるというのだろう。
蛇ノ目はとどめを刺すために、告松が落とした剣を取り、倒れたそれの元へ行き、真っ直ぐに剣先を向けた。ゆっくりと骨を脱ぎ、背に担ぐ。心臓をひと突きするために、視界を広げたのだ。素顔を表した蛇ノ目を見て、数人の男が声を上げた。
男たちにはその姿かたちが、親よりもはっきりと焼き付いている。自分たちの暮らしを大きく変えた化け物。恐れ、ひれ伏し、顔色を伺っていた。蛇ノ目の影に入り、殺されないよう互いに利用した。
「あの頃は生き物の弱点は首ばかりだと思っていた。だが、俺たちにはこれがあった」
剣が告松の体を貫く。1度ビクッと反応したが、それからはもう1ミリたりとも動かない。
「それに、お前らの作るこれは、とても簡単にそいつを壊せる」
男たちの知る音よりも、低く重い蛇ノ目の声は、深いふかい圧力となって、男たちにのしかかる。動くことが出来ない彼らを見て、蛇ノ目はニヤリと笑った。
「なぁ、お前らに俺の
悲鳴は波となり、勢いよく、街へと引き返した。
予想以上に告松は弱かった。ほかの人間も俺に向かってくることはなかった。
不思議だ。
体が湯を浴びたように熱い。あの日、傷口に火をあてたように、燃えている。
足りない。
まだまだ、俺は暴れたい。肉と骨の潰れる感触が欲しい。
欲望に掻き立てられる蛇ノ目の視線の先は正街。再び重い骨を被る。呼吸が反響して、鼓動と一緒にリズムを刻んだ。
「行こうぜ、くー」
お前だってまだ暴れ足りないんだろ?
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