第15話


蛇ノ目が薙ぎ倒した1人は、小さく起こしていた焚き火に倒れ込んだ。光が失われて戸惑う人々をくーは踏みつけ、蛇ノ目は殴り続けた。男たちは突然現れた刺客に戸惑い、死にたくないと、必死に武器を振った。手持ちのランタンをつけたのは、布を巻いた男だった。


微かなあかりに照らされたのは、リーダーである大男の肩に跨り、腕で首を絞める蛇ノ目だった。大男は力が抜け斧を落とした。そして蛇ノ目と共に倒れる。布の男はその一瞬で体が恐怖に支配された。喉が潰れるほどの叫び声を上げ、ランタンを掲げて逃げ出した。それにつられるように、他の男たちも叫びながら逃げ出していく。死んだ大男と、くーに潰された男を1人残し、盗賊たちは行く宛てもなく走り去った。



蛇ノ目は大男を椅子替わりにし、男たちの荷を漁った。水と日持ちする木の実、干された肉。くーの腹を満たせるほどの肉はなかった。くーは目を輝かせながら、蛇ノ目の下にいる男を見つめている。


「くー、人間はダメだ。肉がくさい」

「クルゥガゥア」

「ダメだ。明日はくーの肉を探すから、これで我慢しろ」


干し肉を数枚投げると、くーは大きく口を開いてそれを噛むことなく飲み込んだ。




日が昇ってから、蛇ノ目たちは再び動き出した。くーはしきりに地面に鼻を近づけて、何かを探している。恐らく、何か食べ物を探しているのだろう。


蛇ノ目の目より先に、くーの鼻が捉えたのはイノシシだった。子育てを終えたオスのイノシシだった。かなり体が大きく、口から伸びる牙も立派なものだった。


「いいよ、行ってこい」


蛇ノ目がそう言うと、くーは僅かな茂みに体を隠して、ゆっくりとイノシシへと近づいていく。数メートルというところで気がついてももう遅い。くーは大きく口を開けながら、2本の足で大地を蹴り、飛び上がる。イノシシがくーの方を向いた時にはもう、その頭は口の中だ。

じたばたと暴れる体を前足で押さえつけ、首を絞めるかのように顎に力を加える。くーの前足は後ろ足に比べると細いが、充分力もあり、ものを掴むには便利なものだ。


イノシシが息絶えれば、くーは1度口から取り出して、腹から牙を突き立てていく。どれだけ腹が空いていても、蛇ノ目の分を残しておくのは、昔からのくーの癖だった。


「くー、これはお前が全部食べていいぞ」


自分には干し肉があると、1枚咥えて見せれば、くーは残しておいた肉にも食らいついた。



南街に着いたのは、それから2度朝日を見てからだった。正街と同じく、街を塀で囲い、塀の内側は畑、住居、中央には一際目立つ立派な建物。正街とは違い、それは塔の形はしていなかった。住居を3つか4つ合わせたぐらいの大きさで、その豪邸の門前に、井戸が置かれていた。正街は周りに森があったが、ここは岩場ばかり。そのため、家畜を多く飼育しているようだ。

森がない代わりに川らしきものがあった。細く濁っているが、進化した魚たちがそこで生きているようだ。


蛇ノ目は適当な洞穴を仮の巣穴と決め、さなかを数匹捕まえ、その日は休むことにしたようだ。

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