第11話


「な、なぜだ……」


少年は苦しむどころか口元の肉片を余すことなく舐めていた。異形も食後の毛ずくろいか、顔を舐めている。


隊員たちに動揺が走ったが、気にせず声を上げた。


「構うな!殺せ!!」


狭い部屋の中、剣を構えた男たちが気合いの声と共に押し入った。





蛇ノ目はその声を動きを、敵対行動だと捉えた。食事も変な味がしてあまり美味しくなかった。まずは最初に切り込んだ男の剣を避け頭突きをする。男は曇った声と共に鼻から血を吹き出し、後ろに倒れ込む。そのまま何人かを巻き添えにする。


男と頭をぶつけた衝撃のまま体を後ろにそらし、足を振りあげれば1人の男の顎に当たる。舌を噛んだのか、口から血を流した。



ここでは狭い。蛇ノ目は背後にあった木枠を殴り、外への道を開いた。くーが先にそこから外へ出て、蛇ノ目もそれに続いた。後ろから追え、という声が聞こえる。蛇ノ目は逃げる気などなかった。まだあれの殺し方を知らない。


振り下ろされたあの光る鋭いものを使えば殺せるのか?自分は道具を使ったことがない。自分の牙と拳の方が、ずっと使いやすいはずだ。


あいつらが追いついたら、今度は首を絞めてみよう。うさぎより太いから、両手の方がいい、それとも音が鳴るまで倒してみるのがいいだろうか。何度も蹴りあげようか、踏みつけるのがいいか。ああ、なんだか落ち着かない。その日の肉を得るときのようだ。


「クァアア」


くーの鳴き声で、男たちが迫ってきていることに気がついた。ものすごい速さで何かが飛んでくる。それを避けたが、かすってしまった。

蛇ノ目の頬を弓が通り過ぎた。久しぶりに蛇ノ目は自分の鉄を舐める。くーも威嚇を始め、今にも走り出しそうだ。これは蛇ノ目達にとって狩りだ。


くーは突進を始めた。蛇ノ目は横を走る。矢が飛んでくる。それはくーに向かっており、蛇ノ目はくーの前に左足を出した。矢は貫通はしなかったものの、蛇ノ目の足に刺さり、血を流した。普通なら痛みでその場に蹲るが、蛇ノ目は矢が刺さった足を横に振り回し先頭の隊員の脇に蹴りを入れた。


八賀の隊だけでなく、戦時に動く第二部隊も駆り出されていた。もう毒が効いていないことは明らかだ。蛇ノ目の動きは1人、またひとりと倒していく度に速くなっている。


蛇ノ目は2人倒し、その上にしゃがむと、そこを狙って剣が3本ほど同時に振り下ろされる。蛇ノ目は1本を右腕で防ぐ。蛇ノ目の熱い皮膚を切り裂いた。赤い血が相手にも蛇ノ目にも降りかかる。さすがの蛇の目も痛みを感じた。足に続き腕を負傷したが、蛇ノ目は勢いを止めず、1番近くの男に頭をあてる。砂利を掴み、目くらましに投げた。

砂利のかからなかった男の首を掴み、地面に伏せた。ドタンっという音ともに男は動かなくなる。目くらましをした男の足を払い、転ばせたあと、鳩尾に蹴りを入れた。


武器も持たない蛇ノ目の強さに、後方の隊員たちが恐怖する。蛇ノ目はその中で1番戦う意思のある者を見つけた。



蛇ノ目は八賀の元に走った。矢が放たれるが、今度はそれを避けた。走りながら足に刺さっていた矢を引き抜く。それを持ち直し、大きく飛び上がる。八賀は剣に持ちかえる。蛇ノ目は持った矢を八賀の肩に突き刺した。

八賀は痛みに喉を反らせながら叫ぶ。首は、いつだって蛇ノ目の中では急所だった。締めたり折ったりすれば簡単に獲物は死んだ。だから今回もそうした。太いその首に蛇ノ目は牙を突き立てる。



「ぁが…ぅぐぁ」


八賀はすぐに白目をむいて、体から力を抜いた。蛇ノ目が口を離すと、八賀はバタリと地面に倒れ動かなくなった。


「隊長!!」

「第一部隊がやられたぞ!」


八賀の死亡に明らかに全体が動揺した。このまま戦ってもいいが、蛇ノ目の血は止まっていない。


「くー」


くーを呼び、蛇ノ目は兵舎の屋根を飛び越えた。既に日は沈み、飛び越えた瞬間の蛇ノ目の姿は闇に溶けた。



自分とくーの鉄臭さを鼻に感じながら、蛇ノ目はある匂いを探していた。その匂いを見つけ、蛇ノ目は降り立った。


「きゃあ!」

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