ソーシャルディスタンスはVRMMOで

黒おーじ@育成スキル・書籍コミック発売中

ソーシャルディスタンスはVRMMOで


 2XXX年。


 マスク、リモート、ソーシャルディスタンス……


 それらが正しいか、狂乱パニックかは置いておいて、社会が大きく変容してしまったことだけは確かだった。


 最初はみんな「今の時期はしょうがない」と言っていたものだが、あれからというものグローバルな世論では常になんらかの“病名”が流行し、マスク×リモート×ソーシャルディスタンス社会は一時的なものではなく「新しい常識」として常態化されてしまったのである。


 こうして……


 人間のコミュニケーションからは身体性が奪われ、バラバラな個々人は(ほぼ無自覚ながらも)希望と活力をなくしていった。



 だが、そんなある日。


 RPG・VRMMOゲーム『ファイナル・ドラゴンズⅡⅩ(通称:ファイドラ)』が発売されたことにより、時代はまた新たな展開を見せる。


 このゲームの画期的なところはなんと言っても「完全なる仮想現実」を実装しているところである。


 つまり、プレイヤーは「現実と同じ3D視界、立体音、香り、味、さわり心地」を体感しながら、「現実の身体を動かすのと変わりない操作性」でゲーム空間内に存在することができるのだ。


 また、ファイドラのVR空間には世界中のプレイヤーが同時接続でき、“現実と変わらない身体感”で人と出会い、遊ぶことができた。




 こうして人類は『ファイナル・ドラゴンズⅡⅩ』の中でのみ人間性を取り戻すことができたのである。


 なにせ、どんなにリアルな感覚でも、ゲームの中では「マスク」も「距離」も求められようもないのだ。


 実際の肉体は別の場所にあるので、いかなるウィルスにも感染するリスクが0%であると明瞭だからである。


 それは旧時代の「リモート」と同じことだが、もはや旧時代的な平面モニターやヘッドフォン、マイク、スマホなどに押し込められる必要もない。


 よって、このゲームの世界のプレイヤー人口は50億人にまで達したのだそうな。




 しかし――


 ファイドラ発売から30年がたつと、徐々にそのプレイ人口は減っていく。


 50億が30億、10億、3億……


 やがて発売から150年、とうとうプレイヤー数が1万を切ったところで『ファイナル・ドラゴンズⅡⅩ』はサービス停止に追い込まれてしまった。


 決して品質が悪くなったわけではない。


 アップグレードによりゲーム性も豊かになり、ゲーム内のフィールドも運営のたゆまぬ努力によって常に発展し続けていた。


 ユーザーの評判も高評価を維持している。


 では、どうしてこんなことになったのか?


 簡単なことである。


 そもそも仮想現実とは言え、リモート社会では当然子供が生まれない。


 誰しもがファイドラの中で生活する世界で、出生率はほぼ0%で推移してきたのだった。


 そして、生まれる者がいなくなれば、人は時間と共に減っていく。


 つまり150年後。


 世界の人口そのものがすでに1万人を切っていたのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ソーシャルディスタンスはVRMMOで 黒おーじ@育成スキル・書籍コミック発売中 @kuro_o-oji

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ