第七話




 静寂の中、ピクピク&ビクンビクンする一行に何も出来ないアタシは、若干の居たたまれなさと手持ち無沙汰を紛らわす為に、任務完了の達成感で満面の笑みを浮かべて自分のイスに座ったロウジィの頭をヨシヨシと撫でる事にした。


 「ネーネ」


 褒められた嬉しさで、その笑みが一段と花咲くまいしすたー。アタシも笑顔でロウジィを褒めてあげる。


 「グッジョブよロウジィ」


 背中に冷や汗は…掻いてない…掻いてない事にしよう。背中の冷たい雫がツツ~と腰に届いた時に廊下から数人の足音がバタバタと聞こえ、顔を上げるとデュップが入室前に一礼をし、後に続く治療師達も次々と礼と共に部屋に入って来る。


 「失礼致します」


 「「「失礼致します」」」


 それからは、見事な仕事っぷりを見せてくれた彼等に祝福を与えたい位だったよ。回復した女王以下、王族皆さんと改めてテーブルを挟み『親睦会』が始まる。

 侍女達は別室で治療を受ける為に運ばれて行き、別の侍女達がやってきて料理や飲み物をテーブルの上に所狭しと並べて行く。

 王族の会食が庶民染みた感じになっているのはアタシの希望。ロウジィもいるからね、アットホームな感じにねってお願いをした。料理諸々が、テーブルを埋め尽くす。正式なテーブルに不安があったアタシはユリユーにお願いして隣に座って貰い、マナーを教えて貰った。

 これはロウジィにも覚えて欲しかったからなんだけれど、ユリユーだけでも良かったんだけれど。ロリローとも話しをしたかったってのもあって、ユリユーはロウジィに、ロリローはアタシに付いてもらう。


 「ロウジ、ネーネとイッショ」


 沢山の御馳走を食べられるってよか『アタシとおんなじ』って事が嬉しいと高揚気味のロウジィはユリユーにテーブルマナーをレクチャーして貰いながら一口食べる度に、楽し気な顔をアタシに向け。


 「イッショ、イッショ」と喜びを全身で表現し、偶にユリユーに注意され『しゅん』となりながらも作法を一つ一つ覚えて行ったよ。思わず頭を撫でたら、アタシもロリローに『はしたないですわ』と注意され、意気消沈する。


 と。

 「ネーネ、ロウジ、オんナジ、オんナジ」


 なんて言いながら喜ぶ姿をポロ女王やチチーク王は顔を綻ばせ、暖かく優しい眼差しで自分たちの娘やロウジィを見つめていた。


 さっきの惨状…じゃなかった『状況』から一変して和やかな雰囲気になったのはアタシの『恩恵』の効果だったりする。


 まず、アタシとロウジィに対して畏まる事を『否定』して『みんなで一緒に楽しく親睦会をする』事を『肯定』したのよ。


 文字を覚える時や鍛錬中に試した『恩恵』で、それは確認済み。アタシの文字を学んでいる『感想』を『肯定』して、鍛錬中の『異様に思う事』を『否定』してみたんだよ。他にも色々と試した結果『恩恵』の使い方が分かった。


 でもコレって、使い方次第で飛んでも無い事が出来そうよね。まぁ余っ程の事が無い限りはね、常識ってゆーか、常識の範囲内で使うわ。


 アタシの『常識』が間違っていないかは一先ず置いておく…。多分、大丈…大丈

 『恩恵』を使用しての『親睦会』は楽しく、美味しい思いをして終わり。


 頭痛になりそうな話しは翌日にしましょうと『恩恵』を使い、今日はお風呂に入って就寝する事にしたんだよね。アタシを含め皆もかなり疲弊してしまっただろうし、一晩経てば落ち着いて話しも出来るって思ったからそうしたよ。


 今回は湯浴み場じゃなくてお風呂よ! お風呂! 俄然テンションも上がっちゃうってなもんだわ。


 こっちの世界に来てからと云うもの、日の入浴は専ら湯浴みだったからアタシのストレスは溜まりに溜まっちゃってて、限界値まで来てたわ。

 朝昼夕晩のお風呂は我慢し、昼と夕方の二回の湯浴みのみ。お風呂は三日に一回って…お風呂に入る事で癒しを得ている身としては、拷問に近い状況に極大の忍耐が必要だった。


 基本、女性王族は汗を掻く必要のない生活が多いのが元凶。王や王子は鍛錬や視察とかで身体を動かして汗も搔くから一日一回はお風呂に入るし。侍女も甲斐甲斐しく仕事を熟さないといけないので、使用人用の浴場があるんだって聞いたときは殺意が芽生えた。


 アタシを女性王族と同等に扱ってくれた事には感謝かもれないけれど、それは『親切の逆効果』ってヤツなのよ。希望位聞いてくれてもいいじゃない? ってユリユーに文句を言ったら、ナムチの件があったので聞くにはばかられたって返されて、何も言えなくなっちゃったわ。


 だ・け・ど、今日からお風呂は何時でも入れる様になってね~ふふふ、何時でもと云う事は何時でもなのですよ~♪


 「お風呂、お風呂、おっふっろ~♪」


 何も持たずに『アタシ専用』にしてもらっちゃった大浴場へ『ふぃーる・そー・ぐっ!』ってな感じで歌を歌いながら向かっていく。勿論、ロウジィも一緒にね!


 「オフリョ、オフリョ、オッフッリョ~」


 アタシの歌を真似するロウジィもテンション・アゲアゲモード。


 二人仲良く手を繋いで、心弾ませランランラン。決して『ルー』と思っていても言ってはいけないのは大人の事情ってヤツよ。アタシはまだ大人じゃないけれど、そーゆーコトにしておいてね。


 アタシのこの『脱線グセ』は悪友の真沙弥まさみの影響。ラノベとアニメをこよなく愛する、我が部のアカシックレコードと呼ばれる女子よ。


 『腐女子くされアマでは、ないでゴザル』と言うんだけれど、イマイチその線引きが分からない。


 真沙弥まちゃ曰く、『腐女子くされアマとはBLとショタを好むオナゴであり、拙者は違うでゴザルよ』だって。


 アタシからしてみれば大差ないし『ゴザル』の語尾を使っている時点で同類同じ穴の狢としか思えないわ。


 16歳のJKが『御座候』とか、何処の戦国武将よ? なんてアタシの突っ込みにも『否、拙者は歴女でもないでゴザル』だって…慣れないと疲れる子ではあるけれど、愛嬌良くて美人だから寄ってくる男共も多い。しかし、真沙弥まちゃの口調と趣味の所為? おかげ? で変な虫は未だに付いていない。


 彼女の好みは『いぶし銀のオジ様』なんだって。ま、まぁ分からないでもない好みかな。


 そんな悪友とつるむと朱に染まるって云うの? 脱線のボケが感染うつちゃって、このザマです。言い訳させて貰うとね、ほら…猫とかがじゃれてていきなり素面に戻るみたいな? そんな感じ。

 緊張が続くと余裕が無くなってきちゃうから、脱線と云う手段で余裕を取り戻す的な? って事にして貰えるとすんごく助かる。


 等(など)とあれこれしている内に大浴場に着いちゃった。


 エロ泡嬢ナムチの禁止区域に指定したので、彼奴きゃつは居ない…ハズ。居ても彼女の意識は刈るからね! スパンってするからね! 大浴場此処を守る為に防衛術を行使させて頂くわ。


 脱衣所に控えている侍女はユリユーとロリローの者達で、大浴場で『女子会』をする事になったのよ。


 昼間、日本の文化に就いて色々と話しをしたら、是非『裸のお付き合いを』とロリローが懇願してきたのを断れなかったのよね。

 ただ、『付き合い』と『お付き合い』は別モノだってのをキッツ~ク教えといたわ。何でも『お』を付ければイイってもんじゃないって事もね。


 先に来ていた二人は既に全裸だったので、ここでも注意。脱衣所から洗い場へは『恥じらい』ってのを持って行動しなさいよ、タオルで隠すトコは隠して。真っ裸がOKなのは、身体を洗う時と湯につかる時だけ。アタシと入る時は自分で洗体しなさいっても言っといた。


 『自分で』って事に難色を示した二人に「じゃぁ、裸の付き合いは諦めるのね?」服を脱ぎながらアタシが言うと、頑張りますのでお教え下さいって。何処のお嬢様よ!


 あ、王女さまだったわ。こりゃ、うっかり八兵衛だったわね。てへ。


 ロウジィの服も脱がせてあげ、いざカマクラ!じゃなくて、大浴場へGO~♪


 「ロウジ、一人でヤル」と、この子も『一人で洗う』事に挑戦したいんだって。何処ぞの駄目双子とは偉い違いよね、流石は義妹まいしすたー


 ユリユーは『ないすばでー』なのに対して、ロリローは…うん、ロリ。女の武器の一部をユリユーに奪われて生れましたって感じで…ドンマイ!


 ご尊顔は双子だから美女だからね!そこで頑張って生きて行こうね。って顔に出てたのか。


 「これから育ちますの」と健気に自分の胸を、モミモミしてた彼女に。


 「アタチもー」とロウジィが真似をしようとしたからね、慌てて止めたわよ。


 「ロウジィはアタシみたいに、ボン・キュッ・ボンになるから大丈夫よ」

したら。


 「ア~イ、ボキュボ、ナル~」


 元気一杯に両手を挙げて答えるロウジィ。うん、天使だわ。


 髪を洗い、身体洗って4人揃で一緒に湯船に浸かる。キャイのキャイのとしながら、話題は好きなモノだったり、苦手なモノや城内の噂だったり、ちゃんと『女子会』してた。


 少し浸かっては、上がって身体を冷まし再び温まるのを繰り返しながら楽しい時間は過ぎて行ったよ。



 ◇



 さて、上がろうかと皆に言って脱衣所へ。


 ロリローとロウジィはすっかり仲良くなって、手を繋いで一番に歩いて行く。


 「上がりましたら、美味しいお飲み物があるのですよ」

 

 ロウジィ、ピクってしたでしょ? もう~可愛いったらありゃしない。


 「あたま…コンディショナー。上から順に、タオルは…」


 ユリユーは変なとこ真面目で、初めて自分で洗体した事を反芻するかの様に独り言を言いながら、身体のあちこちを触ってたのが妙に面白かったわ。とても気まぐれに召喚術をやらかした子には見えないね。

 最後を歩くアタシは脱衣所に入る前に、もう一度大浴場を振り返り『明日の朝も宜しくね』って心の中で挨拶をした。





 身体も、気分もスッキリして脱衣所へ入った? ………よね。


 しかし、目の前に見えるのは知らない場所。


 あれ? …6日前にも似た様な。


 タオル一枚で前を隠しているアタシを見つめる目、目、目。十二人の神官らしき女性達と正面に一段とオーラを放つ女性…うん、王女さまだ。


 「ちょっとぉぉぉぉぉ、何よこれぇぇぇぇぇ」


 頭に手をやった所為でタオルが落ちるけれど、それどころじゃないんだって。目の前の王女さまに向かってズンズンと歩いて行き、その胸倉を掴む。


 「召喚だよねコレ?」


 アタシに胸倉を掴まれた彼女は無言で頷く


 コクコク。


 「で?」


 据わった目で睨み、彼女へ問いかける。


 「あ、あの~、まさか成功するとは…」


 皆まで言わせないよ? 両手で掴んだ胸倉を、思いっきり揺さぶってやったよ。


 慌てふためく召喚の儀を行った女子達と、アタシに揺さぶられ頭を前後にガクンガクンってなってる王女さまらしき女子。


 「何やっちゃってくれてんのぉぉぉぉぉ」

 

 アタシの絶叫が部屋に響いたのだった。








( ゚Д゚)おしまい。

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召喚奇譚 ~なにやっちゃってくれてんの!~ ふかしぎ 那由他 @shigi_yaenokotoshiro

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